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研究ノート:「内村鑑三は、近代の日本文学を否定することによって、近代文学に寄与した」。

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 逆説的な言い方をするならば、内村鑑三は、近代の日本文学を否定することによって、近代文学に寄与したのである。内村に接した文学者たちは、多かれ少かれ、この内村の文学観を知っていた。それが、結果的には、たとえ無意識にせよ、彼らの文学の彫りを深めることになったように思われる。
 内村と文学者たちとの関係を、内村のきびしい倫理主義や人間的狭量さからの離反、もしくは「背教」としてのみとらえず、接した時期による相違と、両者の間にある共通性と、文学者たちの精神の展開過程のうえで、全体的に扱おうとしたのが本書の課題であった。本書でとりあげた文学者たち(引用者補足……国木田独歩、正宗白鳥、魚住折蘆、小山内薫、有島武郎、志賀直哉、長与善郎、太宰治、亀井勝一郎、中里介山、芥川龍之介ほか)は、内村に接した時期により三群に大別することができる。
 第一の群は、内村が、『国民之友』や『東京独立雑誌』で活動していた時期に、その「大文学」論や、人間いかに生きるべきかの論にひかれた人々である。この人々は、その後身近に内村と接したことにより、内村の人間性に疑問を生じて離れる。この時期は、内村の方も、ややもすれば人と衝突し、社会に対して多くを責める時期でもあった。
 第二の群は、雑誌『聖書之研究』が創刊され、それを読むとともに角筈で開かれていた聖書研究会に出席した人々である。これらの人々は、内村のところで「自然」のキリスト教を見出し共感を示すが、それが同時に離反の一因ともなる。だが、その離反は「背教」というよりは「霊の父」からの自立の傾向の強いものでもあった。文学史上白樺派を形成することになる人々が、これに属する。
 第三の群は、内村の没後、その思想にふれた人々であって、主として日本浪漫派に属する人々である。彼らは、内村のなかに、近代日本の傑出せる「精神」と「近代」の批判をみた。
 これらの三群が、それぞれ内村に接した時期により反応の相違をみせたものの、相互に他と共通する面もある程度有することは当然である。若き日の人生の遍歴の途上に内村と出会い、やがてそのもとから去ることにはなるが、内村に対する尊敬の念は終生持ち続けた人が多く、彼らの生き方や作品にも、少なからぬ影響をとどめ、屈折や陰影を与えている。超越的存在の思想、独立心、天職への模索、「近代」および「近代人」への批判、キリスト教よりもキリストへの関心等々にそれは表れている。ただし、彼らと内村との間における大きな違いは、彼らが、内村のように、罪とキリストの福音については、明らかに語ることのなくなることである。しかし、本書で私は、文学者たちの信仰につき、高所より有無を断定するつもりはない。信仰の表明に関しては、多様な表現形式がありうる。内村はキリスト者の表現形式によりそれを語り、文学者たちのなかには、それぞれ文学的な表現形式により、それを語らんとした人々もいるからである。
    --鈴木範久『内村鑑三をめぐる作家たち』玉川大学出版部、1980年、177-179頁。

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内村鑑三の反教養主義……特に19世紀以降「制度化」「パッケージ化」された知の体系に対する批判……は、その再臨運動と軌を一にして深まってゆく。

この世のものをすべて無効化する内村の信仰のあり方から振り返ってみるならば、義戦論から非戦論への転回と同じく、その消息には納得がいくものである。

しかしながら、内村の弟子となった人間や縁した人間、そして離反した人間の文化人のなかには、内村と相反するように「教養主義的知識人」が多いことに驚いてしまう。

もちろん、個々の事例に即してケースバイケースであることは言うまでもないけれども、その相反する受容の特色の一つとしては、まさに内村の強烈な反教養主義との対峙すなわち「逆接」、その縁した人間の教養主義を涵養することになったとはいえるのではないだろうか。

翻って新渡戸稲造の場合、その教養主義に特色がある。しかし、その縁した人間は、新渡戸の教養主義よりも、(もちろんこれは新渡戸の教養主義とワンセットではあるところの)「修養倫理」を「順接」したケースが多いように思う。

時間のある時に、個々の事例で検証してみたい。

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内村鑑三をめぐる作家たち (1980年) (玉川選書〈135〉)
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