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覚え書:「時代の風:宗教と民主主義=仏経済学者・思想家、ジャック・アタリ」、『毎日新聞』2013年03月03日(日)付。

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時代の風:宗教と民主主義=仏経済学者・思想家、ジャック・アタリ
毎日新聞 2013年03月03日 東京朝刊

 ◇過激主義を恐れるな

 西アフリカのマリで、イスラム過激派勢力の拡大に対しフランス軍などが軍事介入した。マリで起きていることは私たちが直面する多くの問題の側面を映し出している。

 まずイスラム過激主義だ。トルコやモロッコ、フランスでみられる近代的、科学的なイスラム教もあれば、反動的で閉鎖的なイスラム教もある。カトリックや福音主義の中にも過激思想はあり、神道や儒教にも変化を恐れる人々がいる。だがこれほどの宗教的なテロリズムはイスラム教にしか存在しない。彼らは楽園つまり非常にポジティブな死後を信じ、現世に生きることを重要視しない。イスラム教の「ジハード」という言葉は通常は自らの内面の悪に対する戦いと解釈されるが、無信仰者や異教徒に対する聖なる戦いと考える者が相当数いる。これはイスラム教の本質的な思想をゆがめている。

 過激な原理主義は最貧国ではなく、近代性に近づいている国で生まれやすい。富裕層、エリート支配層に近づけない中産階級の欲求不満が強まるからだ。例えばパキスタンはバングラデシュほど貧しくないが、原理主義がある。

 二つ目に薬物の問題がある。マリは薬物密売に関し、特別な位置にある。ラテンアメリカからの薬物は大西洋を渡り(アフリカ大陸西岸の)ギニアビサウを通ってマリ国内の秘密の空港を経由し、欧州に入る。テロリストと薬物が結びつくほど危険なことはない。薬物の売却で彼らは兵器を購入するからだ。

 本当の問題は過激主義を恐れることにある。カタールやサウジアラビアでは富裕層が恐れから自衛のために過激派に資金を渡そうとしている。これは非常に危険だ。

 アルジェリアの人質拘束事件で、アルジェリア政府は長年の内戦の経験から、テロリストに対して一つの対応しかありえないことを理解していた。それは戦争だ。彼らの対応は正しかった。

 武装勢力の活動を世界規模で防ぐには強力な国際連携が必要だ。興味深い例はペルシャ湾とソマリア沿岸だ。かつて非常に多くの海賊やテロがあったが、フランスや英国、米国、ロシア、中国、日本などが非公式な形で国際警察のような作戦を実施し、安全が保たれている。国際社会の協力でテロリズムと戦えることを示している。

 一方で、勢力を拡大する市場は、宗教の敵とみなされる可能性がある。市場は精神面より物質面、集団より個人、長期より短期的なものを優先し、宗教と対立するからだ。

 宗教と市場秩序の両立には宗教が国家ではなく個人に属することが条件だ。国家の役割は個人が望む宗教を信仰できるようにすることだ。宗教規則への服従を強制する社会に自由はなく、市場は自由でない社会では機能しない。教育は非宗教的、近代的であることが重要だ。ナイジェリアの過激派勢力が名乗る「ボコ・ハラム」は「反近代教育」という意味で、彼らは宗教学校でのみ行われる教育を要求している。

 穏健なイスラム教と民主主義は共存しているが、イスラム過激主義と民主主義は両立しない。どのような宗教でもイデオロギーを強制する意思は全て、民主主義に反する。

 私たちは、個人が好きなものをますます自由に選ぶ世界に向かいつつある。それは宗教にも当てはまる。現存する宗教を選んでもよいし、カトリックやプロテスタントやイスラム教、仏教の小さな断片を集めて個人的な宗教を作ってもよい。それを私は「レゴ宗教」と呼ぶが、二つ意味がある。一つは小さな断片で組み立てる、おもちゃのレゴブロックで、自家製の宗教だ。もう一つは、L’ego(自我)宗教という意味だ。

 アフリカにはイスラム教以前の宗教、アニミズム(精霊信仰)が存在し、イスラム教と同時に、あるいはカトリックと同時に信仰している人も多い。

 過激派勢力は少数であっても、アフリカ全体の安定にとって脅威となっている。

 アフリカの発展のためには国際社会が、法の安定と民主主義を国家が実現する手助けをしなければならない。これは世界全体に言えることだ。民主主義がなければ経済成長も起こらない。二つ目に、最も貧しい人々が独自の経済活動を発展させるのを支援することだ。ここではマイクロファイナンス(小口金融)が重要だ。誰かに毎日、食料を与える代わりに自力で収入を得るための資金を貸すのだ。

 アフリカの安定した統治を助けることができれば21世紀はアフリカの世紀になる。莫大(ばくだい)な天然資源があり、やがて人口は世界人口の4分の1を占める。アフリカは巨大な経済成長の可能性を秘めているが、そのためには最悪の事態を避けなければならない。それはカオス(混とん)状態だ。カオスを回避し国々を安定させるか、自ら安定するのを助けることができれば、世界の成長の大きな原動力となる。(ジャック・アタリ氏は今回で終了します)=毎週日曜日に掲載
    --「時代の風:宗教と民主主義=仏経済学者・思想家、ジャック・アタリ」、『毎日新聞』2013年03月03日(日)付。

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http://mainichi.jp/opinion/news/20130303ddm002070087000c.html


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