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覚え書:「今週の本棚:三浦雅士・評 『集合知とは何か』=西垣通・著」、『毎日新聞』2013年03月03日(日)付。

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今週の本棚:三浦雅士・評 『集合知とは何か』=西垣通・著

毎日新聞 2013年03月03日 東京朝刊

 (中公新書・861円)
 ◇ネット社会を考える貴重な一冊

 ここ十数年のメディア環境の変貌ははなはだしい。フェイスブックやツイッターなどといったソーシャルメディアが話題にならない日はないほど。だが、パソコンの普及もインターネットの浸透も、ここ十数年のことにすぎない。だいたいそれ以前のコンピュータは、人工知能すなわち「人間にかわって高速度で思考する機械」にほかならなかった。それがいまや面目を一新し、何よりもまず強力な相互通信機器に、また膨大な人々の考えを瞬時に把握できる機械になってしまったのである。

 コンピュータは「タイプ1」から「タイプ2」へと変貌したのであると、本書の著者は言う。「両者のあいだには、設計思想上の根本的な相違がある。高価な注文生産のかわりに安価な大量生産が主流となり、ハードウェアはなるべくシンプルで基本機能だけをみたし、多様なヒューマン・インターフェイスをソフトウェアが分担することになったのである」と。「タイプ1」の典型は、八〇年代、産官学のコンピュータ研究者をあつめ、およそ五〇〇億円の予算をかけてとりくんだ日本の国家プロジェクト「第五世代コンピュータ」開発だが、無惨な失敗に終わった。なぜか。理由は「プロジェクト・メンバーの見識の無さにあった」と著者は言う。「西洋から輸入した技術自体は所与の前提とし、ひたすらその改良にいそしむ」という近代日本流のやり方がもはや通用しないことに気づかなかったからだ、と。むしろ逆に、万物にみな生命が宿るといった日本古来の考え方のほうがよほど適切だったのに、と、示唆するのである。

 本書はしかし国家プロジェクトの失敗の責任を問うているのではない。そうではなく、知の世界そのものが「機械の知」から「生命の知」へと大きく転換しつつあることに注意を促しているのだ。近代西洋型の知からの大きな転換、コンピュータが「タイプ1」から「タイプ2」へと変貌したことの意味はそこにあるというのである。人間の死を宣言したいわゆるポストモダンは「機械の知」の最終段階のようなもの。「タイプ2」の登場とともにポストモダンの掛け声も急速にしぼみ、いまでは「検索エンジンとソーシャルメディアによって低コストで直接民主制が達成できる」という楽観的な議論さえ横行している。生産者と消費者を直接結ぶいわゆる流通の「中抜き理論」の政治版である。「みんなの意見」は案外正しいといった「集合知」礼賛の声も同じ流れのなかにある。

 だが、と、著者は警鐘を鳴らす。透明でフラットなグローバル世界というイメージは幻想にすぎない。人間社会とはむしろ「ローカルな半独立の社会集団」の無数の入れ子構造なのであり、それはつまり「中抜き理論」のその「中」にこそ重要性が潜んでいるということなのだ、と。こうして、「人間集団を感性的な深層から活性化し、集団的な知としてまとめあげる」ような「タイプ3」のコンピュータの出現がいまや切望されているというのだ。

 傾聴すべきだが、しかし本書の白眉はむしろ従来の主観・客観という考え方に対する痛烈な批判にある。現実に地上に存在するのは個々人の「主観世界」だけであり「客観知」のほうこそ人為的なツクリモノなのだ、にもかかわらずそれが重要なのは、「主観」の食い違いによって闘争を繰り返さないために「衆知をあわせて創りあげた一種の知恵」にほかならないからである、というのである。客観知とは「生命の知」なのだ、と。

 過熱するネット社会を考えるための貴重な一冊。
    --「今週の本棚:三浦雅士・評 『集合知とは何か』=西垣通・著」、『毎日新聞』2013年03月03日(日)付。

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http://mainichi.jp/feature/news/20130303ddm015070010000c.html


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