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覚え書:「そこが聞きたい:公共善に貢献する志を マイケル・サンデル教授」、『毎日新聞』2013年03月04日(月)付。


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そこが聞きたい:公共善に貢献する志を マイケル・サンデル教授
毎日新聞 2013年03月04日 東京朝刊

 東日本大震災から11日で2年になる。「共同体主義」を唱える米ハーバード大のマイケル・サンデル教授が来日し、被災地を初めて訪れた。被災地では防災集団移転、巨大防潮堤建設など復興の進め方は意見が割れている。サンデル教授に、どのように合意を形成すべきか聞いた。【聞き手・山越峰一郎、近藤綾加】

 ◇震災復興の合意形成--マイケル・サンデル教授(59)

 --東北大で住民と討論した「白熱教室」はどうでしたか。

 ◆日本の友人の何人かは、東北の人たちが寡黙なのを心配していましたが、講義が進むにつれて多くの人が手を挙げるようになり、とても力強く多様な意見を述べていました。でも、私は驚きません。日本のどこでも議論に参加したいという強い意思を感じてきたからです。

 時間をかけても合意形成が必要だという人や、決断と行動を優先すべきだという人がいて、意見は一致しませんでしたが、賛成しない意見も聞こうとする意思を感じました。震災は、相手を尊重して議論する新しい波の始まりでもあるのです。全員が一致しなくても、相互理解を進めることができます。

 --津波で壊滅的被害を受けた宮城県名取市閖上(ゆりあげ)を訪れたそうですね。

 ◆70歳の男性が案内してくれました。幸運にも家族は生き残ったそうですが、彼の家があった所には雑草だけが生えていました。70年間ずっと住んでいた場所です。海を恐れているか聞いたのですが、男性は「いいえ。海は悪魔ではない、豊かな恵みをもたらす愛すべきものだ」と答えました。

 --閖上は、いったん防災集団移転すると決まっていたのですが反対意見も多く、現地再建も一部認められました。

 ◆実際に現場を見て、住民の意見がなぜ割れるのか、より理解できました。男性の近所にも、元々住んでいた低地に再建している家がありました。彼は「何が正しいか分からない」と言いました。地域には意見の不一致があり、それはときに世代によって起きているそうです。

 私は集団移転すべきか、巨大防潮堤を造るべきかなどについての答えを持っていません。ただ、住民の考えを引き出すにはいろいろな方法があります。選挙は重要な方法ですが、十分ではありません。同時に、より小さな地域の集団の中で意見をぶつけ、異なる案を学ぶことで、住民は何を選ぶべきか決められます。意見表明できるようにもなります。選挙、デモ、市民団体の活動、地域共同体での討論。これらによって意味のある市民社会がつくれるのです。

 住民が何を望んでいるか見いだすためには、国レベルの選挙と同様に、近所、小さな共同体、街といったレベルで討論することが重要です。これは民主主義の重要な部分です。

 --日本では、議員の世襲が問題になっています。

 ◆米国にもブッシュ大統領親子のような例があり、有権者は、名前の分かるなじみのある人を選ぼうとするのでしょう。民主主義では起こりうることですが、米国では世襲議員を選ばないとしても、お金のある候補者を選んでしまう別の問題も出てきています。民主主義は不完全です。簡単に答えを導き出せるものではありません。

 --政治家を目指したこともあるそうですが、政治家に必要な資質は何でしょうか。

 ◆志や忍耐力に加え、理想を言えば「公共的な善」への貢献です。また、経歴の異なる人々と問題に取り組む姿勢も重要です。全ての政治家がこの能力を持つわけではありませんが、最高の政治家は、金持ちだけでなく貧しい人も含めたあらゆる階層の人と問題に取り組むことを好みます。それは民主主義にとってとても重要なことです。

 哲学の学者になりましたが、政治やジャーナリズムへの関心は失っていません。哲学書を書くときも、学者だけでなく普通の人でも理解できるものを書こうとしています。哲学は私たちの生活や政治的、倫理的な選択に密接な関係があると信じています。哲学書を書くことで、政治的選択につながる最大限の貢献をしているつもりです。

 ◇忘却にあらがう

 --復興の進められ方と同時に、被災地では震災の風化も懸念されています。

 ◆災害の風化は世界中で見られる傾向です。人々は自分たちの国、地域、近所、家族といった近いところで起こったことに最も関心を持ちやすい。だからこそ、日本だけでなく世界の人々に思い起こさせることが重要なのです。東北の人々は震災と津波の影響に依然として苦しみ、依然として覚えていてもらうことを必要としています。

 私たちはグローバルな社会の一員なのです。私たちの生活から遠く離れた世界で起こった災害から学び、苦しみを気にかけるべきなのです。そのために教育は、近所を超えたところでも、いま生きている世界を人々に教えるという点で重要なのです。被災地を訪れた最も重要な目的は、彼ら(被災者)は忘れられていないという希望のメッセージを伝えることでした。

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 ■ことば

 ◇共同体主義

 自らが属するコミュニティーの「公共的な善」を正義の根源とする思想。人間は社会的存在であるとして、共同体に起源を持つ美徳を重要な価値判断とする。自由主義を批判するなかで生まれ、国家よりも顔が見える範囲の小さな共同体を重視する。

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 ■人物略歴

 ◇Michael Sandel

 「共同体主義」を提唱する政治哲学の代表的論客。米ブランダイス大卒、英オックスフォード大で博士号。NHK番組「ハーバード白熱教室」が好評を博す。著書に「これからの『正義』の話をしよう」「それをお金で買いますか」など。
    --「そこが聞きたい:公共善に貢献する志を マイケル・サンデル教授」、『毎日新聞』2013年03月04日(月)付。

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http://mainichi.jp/select/news/20130304ddm004070004000c.html


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