覚え書:「だいあろ~ぐ:東京彩人記 被災地の障害者題材に記録映画製作・西尾直子さん /東京」、『毎日新聞』2013年03月13日(水)付。
だいあろ~ぐ:東京彩人記 被災地の障害者題材に記録映画製作・西尾直子さん /東京
毎日新聞 2013年03月13日 地方版
◇介助者不足が浮き彫り--西尾直子さん(37)
東日本大震災発生から2年。あの日、障害がある人たちに何が起きたのか。待ち受けていた状況は--。被災地の障害者の声からさまざまな課題や問題点を切り取ったドキュメンタリー映画「逃げ遅れる人々」が完成した。製作メンバーの中心として何度も現地を訪れた東北関東大震災障害者救援本部東京事務局(八王子市)の西尾直子さん(37)に聞いた。
--作品を撮るきっかけは?
震災から2週間後、物資をトラックに積んで1週間被災地の障害者の元を回りました。みんな伝えたい感情や考えがあふれて、行く先々で毎晩何時間も話を聞きました。周りの風景が変わると共にこうしたことは忘れられていく。きちんと残さなきゃと。もともと障害者団体って、何かにぶちあたるとそれに集中してしまい、記録に残すことが下手なんです。友人に飯田基晴監督を紹介してもらいました。
--登場人物一人一人が印象に残ります。
個人的には、障害ごとに「こういう場合はこういう対応を」という教材のような作品を考えていましたが、飯田監督は障害者個人の葛藤や苦悩に切り込んだ。現場で打ち合わせながら撮影を進めましたが、新鮮でした。
--取材や撮影を通じて気づいたことは?
避難所にバリアフリートイレがない、仮設住宅にスロープがないといったインフラの不備を実感しました。トイレを何日も我慢し両足をぱんぱんに腫らしたり外の空気が吸いたいと涙する障害者に何人も会いました。震災を機にあぶり出された問題もありました。福島県南相馬市から名簿の提供を受け、障害者の安否確認を続けている団体に同行したときのことです。介助サービスを受けていなかったために避難情報を聞き漏らして孤立した盲ろうの夫婦に会ったり、家族が隠すように介助して生活している障害者も多く、驚きました。
--震災発生から2年。被災地の障害者を取り巻く現状は?
福島で介助者不足が深刻です。介助を担う若い人材が避難し、新たに職に就く人もいない。制度として保証されている介助時間がヘルパー不足から確保できない。障害者は仕方なく外出など社会と関わる機会を削っていますが、そのうち食事やトイレ、入浴といった生活の根幹を犠牲にせざるを得なくなるのではと心配です。行政の積極的な対応が必要な時期に来ていると思うし、問題は共有され始めたけれど、答えはまだ何も出ていない。
--作品を通して伝えたいことは何ですか。
障害は決して特別なことではなく、自分自身が当事者にもなり得ます。また、高齢者も含めれば緊急時に支援を要する人は周りにたくさんいるはず。いざというときのために何をしておけばいいのか考えるきっかけにしてほしいです。<聞き手/社会部・平林由梨記者>
◇記者の一言
映画には南相馬市で弟家族と暮らしていた脳性まひの50代女性が出てくる。いまは新潟県内でひとり避難生活を送る。殺風景な一軒家で生まれ育った故郷の話で涙するシーンが心に残った。この女性が故郷に戻れても、介助者不足を解決しなければ満足な生活は送れない。原発事故がもたらした問題の根深さを感じた。
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■人物略歴
◇にしお・なおこ
1975年、高松市生まれ。日本社会事業大学(清瀬市)卒業後、全国自立生活センター協議会の事務局に就職。震災の翌日から被災地の障害者支援や避難コーディネートなどを担う。仮設住宅のバリアフリー化や介助者の確保などを求め、国や県、自治体との交渉も行う。DVD「逃げ遅れる人々」は一般価格3000円、上映権付き団体価格は1万円。問い合わせは救援本部(042・631・6620)まで。
--「だいあろ~ぐ:東京彩人記 被災地の障害者題材に記録映画製作・西尾直子さん /東京」、『毎日新聞』2013年03月13日(水)付。
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