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覚え書:「書評:当事者研究の研究 石原孝二編」、『東京新聞』2013年03月17日(日)付。

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当事者研究の研究 石原 孝二 編

2013年3月17日

◆「自分語り」で取り戻す自分
[評者] 佐藤 幹夫 フリージャーナリスト。著書に『ハンディキャップ論』など。
 べてるの家。障害当事者による自分語りなどのユニークな活動で、その名を全国に轟(とどろ)かせている。この取り組みに端を発した「当事者研究」は、本書の「ケアをひらく」シリーズを中心に注目すべき仕事を世に送り出してきた。ではこれまでの障害当事者運動や援助論と、どこがどう異なっているのか。本書はその意義を再確認し、精神医学、教育学、現象学という他領域からの検証を、戦略的に布置してみせた。
 評者がべてるの家を初めて知った時、納得や期待と共にかすかな危惧を抱いた。自身の妄想や苦痛を言語化し、外部化することは、自分を輪郭づける限りでは生きにくさの軽減につながるだろう。しかし言葉は、発話者に個人化や孤立をも強いてくる。この先の開放装置がどう用意されているのか。それが危惧の中身だった。
 各論文では、そうした外野からの疑問に応えるように主題が選ばれている。「当事者の自分語り」がなぜ研究というスタイルを取るか。研究として自覚化された「自分語り」の最大の目的は、心身(の状態を表す言葉)を専門家から取り戻し、自分で自分を定位することである。しかしそれは「自分のことを自分だけで決める」ことではなく、むしろ当事者同士のつながりを明確にする。あるいは、当事者が持つ困難をなぜ<健常者>は持たずにすむのかという問いは、「障害/健常」という分断を相対化し、この一連の自己発見のプロセスが当事者研究と呼ばれる、ここが従来の当事者運動との違いである、という指摘は新鮮であった。
 本書は「当事者研究」の可能性の提示を狙いとしているが、実はここには障害や援助についての「語り」をめぐる企画者(編者)の一貫した戦略がある。ケアが開かれるためには「語り」が開かれていなくてはならない。ここまで継続されてきた本シリーズの戦略がどこにあったか、その真意を浮かび上がらせる役目も本書ははたしている。
いしはら・こうじ 東京大准教授、倫理学。他に河野哲也・向谷地生良・熊谷晋一郎らが執筆。
(医学書院・2100円)
◆もう1冊
 斉藤道雄著『悩む力』(みすず書房)。障害や病気を抱えた人々が共同で暮らす<べてるの家>の活動を紹介したノンフィクション。
    --「書評:当事者研究の研究 石原孝二編」、『東京新聞』2013年03月17日(日)付。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2013031702000172.html


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当事者研究の研究 (シリーズ ケアをひらく)
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