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覚え書:「今週の本棚:伊東光晴・評 『税金 常識のウソ』=神野直彦・著」、『毎日新聞 2013年03月24日(日)付。

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今週の本棚:伊東光晴・評 『税金 常識のウソ』=神野直彦・著
毎日新聞 2013年03月24日 東京朝刊


 (文春新書・840円)

 ◇「官のファイナンス」ではない「公の税」とは

 税金についての単なる「知識」をこえて、体系的な「理解」を多くの人に、という意図で書かれた本である。このねらいは成功している。著者は日本を代表する財政学者である。

 著者が理想とする社会は、「税金は“良き市民”が支払う“文明の対価”」と人々が考えている社会である。そのためには、税をとる政府が、自分たちの政府であるという共同意識が人々の間で生まれているものでなければならない。私はアメリカ軍占領下の沖縄で、その対極を見た。脱税が成功すると「戦果」というような言い方をするのである。

 日本の現状はこれほどではないけれども、多くの人は政府を自分たちのものとは考えていないだろう。

 財政は「パブリック・ファイナンス」の訳である。このパブリック(public)、公は、西欧社会では皆(み)んなのものでもあり、自分のものでもあるという意味がある。著者は、その西欧での意味は、日本では「公園」という言葉の中にそのものずばり入っているが、それは例外で、「公用車」の公が官を意味するように、官のファイナンスであるにすぎない、という。この官を本来の公にすることが著者のねらいである。

 著者は税についての常識の誤りを正すことから話を進めていく。

 家計は収入が先にあり、その中で支出額をきめていく。国の財政は家計と違い、何にどれだけ使うかという支出がまずきまり、そのための財源を用意する。歳入が不足すれば国債発行となる。この国債発行について、財政法第4条では、公共事業費や出資金、貸付金は認めるが(これを建設国債という)、経常的支出にあたる国債発行(赤字国債)は禁じている。戦前への反省ゆえである。

 にもかかわらず、現実は、毎年特例法で赤字国債の発行を認め、国債の累積額は世界で群を抜き、「公債に抱かれた財政」になってしまった。だが、赤字国債の発行は後世に負担をまわすものだという常識は一見正しいようにみえて誤りであると。

 なるほど後世の人が公債の利子と償還金を負担する。しかしそれを手にする人も同じ後世の人である。問題は別のところにある。

 税と違って公債には抵抗感が少ないため、経費が膨張しやすくなる。さらに税で支出をまかなえば累進課税などによる再分配効果が入り込むが、公債での調達では、この効果はない等、逆再分配になる。さらに公債が外国人に所有されているなど、その所有者いかんでは、市場不安定の要因になりかねない。

 「税負担率が低い国ほど経済成長する」というのも俗説である。著者は現実統計からこのことを明らかにする。先進15ケ国をとりあげて、1970年代、税負担率の高い国の方が、経済成長率が高く、90年代も同様であるが、80年代は逆であると。

 税負担率と関係するのは、「幸福度」であるという。イギリスのレスター大学の幸福度調査から、税負担率の低い国は幸福度も低いことを示している。税負担率の高い国は、福祉を中心とする公共サービスが充実しているからであろう。フランスでも、このための指標をつくっているという。

 税を考える場合、もっとも重要なのは、中心となる基幹税は何かということである。戦後のシャウプ勧告によってわが国は所得税--個人所得税と法人所得税--中心主義が定着した。先進国も同じであり、西欧では、これに付加価値税が加わってくる。

 1990年代のはじめまでわが国の財政収入は、支出と歩調をあわせてのびていた。所得税中心主義が機能していたためである。これが大きく崩れたのは90年代の減税である。それ以後歳入と歳出の差は大きく開き、税収に匹敵する公債発行となり、公債累積が今日まで続いている。

 しかもこの減税は、著者が指摘するように高額所得者の減税であり、所得分配の悪化を招いていく。加藤寛氏が税制調査会の会長の期間(1990-2000年)、アメリカにならい小さな政府をよしとしたのが、今日の財政破綻をつくり出したのである。

 著者のアイディアが光るのは「国と地方の『分かち合い』」で述べられている「三つの政府体系」である。働く現場で共同で拠出し、病気、失業あるいは高齢退職などのとき保障し合うのが“社会保障基金政府”。住んでいる地方で納税し、教育、育児、介護、治安などの行政サービスを受ける地方政府。そして地域の行政サービスが偏らないように、交付金で調整する中央政府。--これをちゃんとやっていると共同意識が生まれ、他に支出ウェイトを置く政府だと共同意識が生まれない。日本がこれである。

 本書の冒頭でギリシャの財政破綻が紹介されているが、ギリシャは、日本が目標にしているプライマリー・バランス(税収入で経常支出をまかなう)を達成していること、その悲劇はユーロ圏に財政調整機能がないこと--つまりユーロには共同意識がないことにあるからだという。
    --「今週の本棚:伊東光晴・評 『税金 常識のウソ』=神野直彦・著」、『毎日新聞 2013年03月24日(日)付。

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http://mainichi.jp/feature/news/20130324ddm015070020000c.html


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