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覚え書:「書評:『ジャン=ジャック・ルソーと音楽』 海老澤敏著 評・岡田温司」、『読売新聞』2013年03月24日(日)付。

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『ジャン=ジャック・ルソーと音楽』 海老澤敏著

評・岡田温司(西洋美術史家・京都大教授)

 「ルソーはまず音楽家だった」、モーツァルト研究の第一人者でもある著者の年来の揺るぎない確信である。18世紀フランスを代表する大思想家で、『エミール』や『告白』などの本でも名高いその人が「まず音楽家だった」とは、いったいどういうことなのか。半世紀にもわたる著者のルソー研究を集大成した本書は、その問いに誠実でかつていねいに答えてくれる。

 新しい記譜法を引っ提げてパリの文壇にさっそうと登場したルソー。「音楽を情熱と呼び、恋と対置させた」ルソー。先輩の大作曲家ラモーに対して、理論と実践の両面から果敢に論争を仕掛けたルソー。時まさに啓蒙けいもう主義の全盛期、ディドロとダランベールが編へん纂さんした浩瀚こうかんな『百科全書』のために、音楽関係の項目を数多く執筆したばかりか、みずから『音楽辞典』まで著したルソー、等々。数え上げるときりがない。とはいえ残念ながら、完全な形で今日に伝わる楽曲は、イタリア・オペラの影響を色濃く受けた代表作とされる幕間劇『村の占師うらないし』などごくわずかで、しかも上演されることも少ない。逆にだからこそ著者は、この大思想家の知られざる顔にあえてスポットライトを当てようとするのだ。その教育論や言語論、政治思想でさえ、実は音楽への「情熱」抜きには語りえないものだという。

 さらに本書で読みごたえがあるのは、誰もが口ずさんだことのある童謡『むすんでひらいて』をめぐる鋭い考察である。広くルソー作とされているのだが、綿密な調査によって著者はその通説に見直しを迫る。明治時代に日本に入ってきて、なぜルソーが作者とされるに至ったのか、そのスリリングな推理は読んでのお楽しみ。随所にちりばめられたモーツァルトとルソーの意外な比較論にもまた、この著者ならではの味わいがある。音楽へのルソーの情熱と、音楽家ルソーを解明し現代に甦よみがえらせる著者の「情熱」とが、美しくも軽妙な二重唱を響かせる好著である。

 ◇えびさわ・びん=1931年、東京生まれ。尚美学園大特別専任教授、日本モーツァルト研究所長。

 ぺりかん社 5800円
    --「書評:『ジャン=ジャック・ルソーと音楽』 海老澤敏著 評・岡田温司」、『読売新聞』2013年03月24日(日)付。

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http://www.yomiuri.co.jp/book/review/20130326-OYT8T00894.htm


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