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覚え書:「書評:明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち 山田詠美著」、『東京新聞』2013年04月14日(日)付。


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【書評】

明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち 山田 詠美 著

2013年4月14日

◆喪失を抱いて生きる家族
[評者] 伊藤 氏貴  文芸評論家。著書『告白の文学』『奇跡の教室』など。
 夫に去られ少年と少女を抱えた女と、妻に先立たれ幼い少年を抱えた男が再婚し、そこに新たな女の子が生まれる。想像するだに困難なこの新しい家庭の問題はしかし、家族同士の軋轢(あつれき)ではなかった。むしろ驚くべきほど互いを思いやるなかで、自分の実子である長男の夭逝(ようせい)によって女の心に空いた穴から全員の苦しみが始まった。他の成員たちにとっても悲しい経験ではあったが、母たる女の喪失感は全くレベルが違った。女は生きる意味をさえ見失った。アルコールに溺れた。そしてそのことはつまり、家族の他の者たち全てにとって、自分が死んだ長男ほどには女から愛されてはいなかったのだという事実を突きつけるものだった。
 あまりに辛い現実ではある。特に子どもたちにとって。長男を別格に扱う「家」の時代は過ぎ、公平を建前とする「家族」の時代に、親が子どもたちに注ぐ愛情に格差が存在しようとは。
 母に悪気は全くない。しかしそれでも、親も人間であり、子も人間であるかぎり、好みや相性というものは厳として存在してしまうのだ。いかに辛くともその現実を受けいれ、あるいはいなすことによって、子どもたちは生きる力を養う。自分も辛いが、アルコールに浸らねば生きていけない母の方がもっと大きな喪失を抱いているのだ。「人を賢くするのって、絶対に人生経験の数なんかじゃないと思う。それは、他人ごとをいかに自分ごととして置き換えられるかどうか」だという一種の悟りは、母の辛さを共に分かち持とうとすることにより得られる。
 「家」だろうが「家族」だろうが、あるいはこの後に来る新たな関係だろうが、他人と共棲(きょうせい)するにはこうした悟りを実践することが必要だ。タイトルのように、死を想(おも)うこととは、自分にとっての自己の消滅だけでなく、他者にとっての自己、自己にとっての他者の消滅を考えることでもあり、それが真に「人を賢く」するのだろう。
やまだ・えいみ 1959年生まれ。作家。著書『風味絶佳』『ジェントルマン』など。
(幻冬舎・1470円)
◆もう1冊
 山田詠美著『ベッドタイムアイズ』(河出文庫)。日本人の少女の「私」と黒人米兵の恋と別れを新鮮な感覚で描いたデビュー作。
    --「書評:明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち 山田詠美著」、『東京新聞』2013年04月14日(日)付。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2013041402000186.html


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