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覚え書:「書評:知られざる日露の二百年 アレクセイ・A・キリチェンコ著」、『東京新聞』2013年4月14日(日)付。

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知られざる日露の二百年 アレクセイ・A・キリチェンコ 著

2013年4月14日

◆元諜報員が提示する歴史
[評者] 佐々木 洋 札幌学院大名誉教授。共著に『スターリンと日本』など。
 本書は、旧ソ連の「沈黙の壁」に風穴を開け、シベリア抑留や北方領土占領に関し「非はわがソ連にあり」と主張した元KGB大佐の初の単行本である。機密が解かれた公文書に基づく言説は注目を浴びた。東北大学の研究機関から出た四万名の『シベリア抑留死亡者名簿』も著者の編集になる。
 まずは二百年前のレザノフ使節団の失敗と蝦夷地などへの侵害が日本人の脳裏に対ロ疑惑を刻んだ歴史から説きおこす。日本の北樺太撤兵から赤軍の満州進攻までを戦争瀬戸際期と著者は観(み)る。ソ連は東京裁判で日本の系統的な侵略を断罪したが、「田中上奏文」は偽物で、張鼓峰事件もノモンハン事件も偶発的な国境紛争にすぎず、日本軍は中国戦線が泥沼化して、ソ連に大規模に進攻する余地がなかったと言う。
 この分野には故スラヴィンスキーの好著があるが、スターリンによるブリュッヘル元帥ら「極東閥」を含む大粛清と日ソ関係との関連に未解明の難問が多い。なぜかリュシコフ大将の日本亡命の時期を一カ月誤認しているが、熱戦と冷戦の極東史解明に関わるこの分野で、著者キリチェンコがロシア側の研究の鍵を握るのは間違いない。
 さらにミズーリ艦上での降伏調印式以後にも赤軍が歯舞諸島の「解放」戦争を続けた歴史を提示する。その一方で、北方領土返還に四島周辺漁民が反対し、ロシア人密漁者が国境警備機関を買収する現実があり、日本国民は冷淡だとする現状認識を突きつける。
 読者の多くが初めて知ると思われるのが、スターリンの厳命でソ連諜報(ちょうほう)員二人が終戦直後の八月十六・十七の両日、広島と長崎の原爆現地踏査に入った逸話であろう。二人とも被爆(ひばく)して一人が助かった。その教訓は今なおロシアの原潜等で生かされているという。
 訳文は滑らかで読みやすいが、外交用語や軍事用語などについて、より適切を期すべき箇所がある。
Алексей А КИРИЧЕНКО 1936年生まれ。露日関係史研究者。共著に『ソ日戦争』。
(川村秀編、名越陽子訳、現代思潮新社・2940円)
◆もう1冊
 W・モロジャコフ著『後藤新平と日露関係史』(木村汎訳・藤原書店)。満鉄総裁など日露関係の最前線にいた政治家の役割を考察。
    --「書評:知られざる日露の二百年 アレクセイ・A・キリチェンコ著」、『東京新聞』2013年4月14日(日)付。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2013041402000185.html


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