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覚え書:「書評:色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 村上春樹著」、『東京新聞』2013年4月21日(日)付。


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色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 村上 春樹 著

2013年4月21日

◆絶望、孤独から再生の歩み
[評者] 横尾 和博 文芸評論家。著書『新宿小説論』『文学÷現代』など。
 本書の背後には3・11の大震災と原発事故がある。著者が一九九五年の阪神大震災のあと、連作短編集「地震のあとで」(のちに『神の子どもたちはみな踊る』)を発表したように。本書には津波も放射能もなにも書かれてはいない。だが大震災が行間に深く埋もれている。私はそのように読んだ。同じ時代の空気を吸ってきた同世代の者の勘である。
 その根拠を謎解きのように提示するのは簡単だ。主人公の多崎つくるという名前。姓は三陸リアス式海岸の多くの岬を象徴し、名はモノ作りと再生を比喩する。人間関係の正五角形とは原子力ムラを暗示。また盛んに使われる「色彩のない」という表現について、私は大津波が押し寄せるさまや、事故後の福島第一原発のモノクロ映像を想起した。そして「調和する親密な場所」は「消え失せた」のであり、「記憶をうまく隠せたとしてもそれがもたらした歴史は消せない」など意味深長な会話文。しかし謎を解き、隠されたキーワードを探し発見すること自体に意味はない。文学は読むのではなく、感じることが大切だと思うから。
 表面上のストーリーは三十六歳の男が、十六年前に体験した親友たちとの決別で負った絶望と孤独を、女友達をとおして過去の傷に向き合い、再生に向けて歩みだす物語。わかりやすいストーリーと難解な意味、風変わりなタイトル、比喩と象徴、著者の本領発揮の作品だ。主人公の多崎つくるは自分が中庸で色彩がない、と思っている。しかし色彩がないことが、ひとつの色彩になっていることに気がついたのは私だけだろうか。いやあの三月の東北の海辺の無機質な情景を見たものは、みな色彩の意味を察するに違いない。
 痛みはどのように克服されるのだろう。忘れることか、あるいは真実と向き合うことか、はたまた…。村上春樹と私たちの心の巡礼の旅は、まだ始まったばかりである。
むらかみ・はるき 1949年生まれ。作家。著書『ねじまき鳥クロニクル』『1Q84』など。
(文芸春秋・1785円)
◆もう1冊 
 莫言著『変』(長堀祐造訳・明石書店)。現代中国を代表する作家の自伝的小説。小学校を放校になって以来の人生の変転を描く。
    --「書評:色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 村上春樹著」、『東京新聞』2013年4月21日(日)付。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2013042102000172.html


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