書評:「里村欣三顕彰会編『里村欣三の眼差し』(吉備人出版)」、『第三文明』2013年5月、95頁。
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書評
『里村欣三の眼差し』
里村欣三顕彰会編
吉備人出版・2940円
果敢に抵抗したヒューマニズム作家の実像
プロレタリア作家として活躍したのち、従軍作家として唯一戦死した文学者である「里村欣三ほど誤解され忌避(きひ)された作家は、この国の文学史上稀(ま)れである」(戦時文学研究家・高崎隆治)。文学史は里村を軍国主義作家の代表と位置づけるが、果たしてそれは正しいのか。
試みに戦中の作品を手に取ると、軍国主義を正当化しようとする色彩は殆どない。里村は貧者や弱者には「国境がない」という。最底辺の弱者に寄り添う慈愛と優しさには「転向」はない。このブレのなさに注視すると、里村は、あらゆる立場主義と訣別(けつべつ)するヒューマニズムの作家といってよいだろう。イデオロギーを優先させるプロレタリア作家とも、利害を優先させる翼賛文化人とも里村を分かつのは、この一点である。その意味で里村は再評価されてしかるべき文学者である。
本書は、里村に関する待望の論集である。里村を顕彰しようとする人々の意欲的な試みだ。五〇余りの考察は、その実像を多面的に明らかにする。埋もれた経歴の点と点を繋ぐだけでなく、より立体的な里村像を提示する。里村は創価教育学会の会員であったといわれるが、入会時期や信仰の実相に迫る論考など、この本で初めて知ることは多い。
すべてが統制下の時代の抵抗とは錯綜的であり、単純な二元論でその「眼差(まなざ)し」を捉えることは不可能だ。あれか・これかで人間を分断する現代、里村を学ぶ意義はそこにある。里村の作品は青空文庫にいくつか収録されている。本書と併せて若い人たちに手にとって欲しい。
(神学研究者・氏家法雄)
--拙文「里村欣三顕彰会編『里村欣三の眼差し』(吉備人出版)」、『第三文明』2013年5月、95頁。
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