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個人と社会という二レベルのHACSの関係を考えること


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コミュニケーションとプロパゲーション
 HACS(引用者注……「階層的自律コミュニケーション・システム(Hierarchical Autonomous Communication System)」というモデルをつかうと、情報や知識の伝達や蓄積を論じることができる。
 すでに述べたように、心はもともと閉鎖系だ。知の原型は、主観的で身体的なクオリアをベースにして、一人称てきなもんとして形づくられる。その意味で閉じている知を、かんたんにつたえることなどできるはずはない。それなのに、社会のなかで「情報」が伝達され、それらを組み合わせて三人称的な「知識」が構成されていくのはなぜか。
 これは、個人と社会という二レベルのHACSの関係を考えることで明確になる。簡単な例で説明しよう。
 いま、高校生の友人AとBの二人が、同じ小説を読んだ感想を語り合っているとする。主人公は貧しいシングルマザーの息子ながら、水泳に才能があり、オリンピックをめざしている。かたわらでCがその対話を黙って聞き、メモをとっている。もし面白そうなら、自分も読んでみて、ブログやツイッターで仲間に紹介しようという魂胆だ。
 Aはスポーツ嫌いの文学少年だが、自分の母親も離婚したので、主人公の気持ちや寂しさがわかる。だから、Aは自分の暗黙知をふまえ、主人公の家庭の様子や母親との交流をおもに話題にする。一方、Bは自分もテニスに打ちこむスポーツ少年なので、主人公の怪我による挫折のつらさや、勝利の喜びに身体的に共鳴できる。そして、トレーニングや水泳大会の様子に注目する。いったい、二人の対話はうまく進むだろうか。
 人間同士の対話では、言葉の意味がたがいに首尾よく伝わるかどうかを確かめる手段は存在しない。そこが機械間の通信との違いだ。もしAが小説の細かい文体の良し悪しばかりに執着し、Bもまたスポーツの技術論や根性論ばかりに拘泥していれば、二人の対話はうまく行かない。コミュニケーションは途切れがちになり、ついには断絶してしまう。
 しかし、AもBもともに主人公に共感していれば、二人の対話はそれなりに成功するはずだ。もちろん、それぞれの発言は別々の暗黙知に支えられているし、互いの言葉をそっくり理解できるわけではない。ある意味では誤解の連続かもしれない。だが、対話自体は大いに盛りあがり、コミュニケーションは継続していく。Cはその様子を観察し、処理して、自分のブログに二人の対話をもとに小説の紹介を書こうと決意する。
 二人のあいだの情報伝達とは、基本的にこのようなものだ。
 つまりそれは、AやBという「個人」の階層のHACSではなく、二人が参加している「社会」という上位階層のHACSにおいてコミュニケーションが成功し、継続していくことなのである。さらに大切なのは、その有り様をCが観察し記述することである。小規模な社会的HACSであっても、Cの記述はこのHACSの「記憶」そのもであり、作動とともに蓄積されていく。
    --西垣通『集合知とは何か ネット時代の「知」のゆくえ』中公新書、2013年、107-108頁。

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昨日は、尊敬し、信頼する先輩と、初めて盃を交わし楽しい時間を過ごすと同時に、思索し、行動する意義をもう一度、再省し、新しく開いていくきっかけになったと思います。

コミュニケーションの不全がこれみよがしに語られ、その一方で、交わらない自己主張のみがえんえんとくりひろげられる人間の言説世界。

もういちど、原点に戻って、その営みを相互点検するなかで、創造的な挑戦をしていきたいと思います。

お忙しい中時間をつくってくださりまして、ありがとうございました。


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