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病院日記(1) よりそう言葉について

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病院でバイトしはじめまして一週間になりましたので、その印象録をひとつ。

コミュニケーションの問題についてです。
※ディベート等は割愛します。

世の中には、話題や趣味を共有することに喜びを見いだす、井戸端会議のような「会話」というものがあります。また、熟議という言葉に代表されるような、何かの目的をもった創造的止揚を目指す「対話」というものもあります。

そして21世紀になってから、にわかに注目を集めるようになったのが「グローバル人材w」の必須アイテムとしの言葉のやりとりといいますか、ふんだんな有意義情報をもとに、エッジを利かした(二流)スノッブなやりとりというものがあります。

論証知に隣接する学問に長く携わっていると、私自身、「会話」よりも「熟議」に目がむきがちなのは事実ですが、対話や熟議だけで、会話がまったくないというのは生活の潤いが全くないとは思います。かといって会話だけでいいのかと考えれば、それも生活世界がものすごく閉じたものになってしまうという消息もよくわかります。

そして有意味性のみを排他的に追求するグローバル言辞(とでも表現しておきましょう)はどうかといえば、相対的価値に準拠する「流行」のひとつにしかすぎませんから、これほど空虚なものはないと思いますので、割愛しておきますw

さて、楽しさの共有、そして目的をもったやりとり、この両方は、場合に応じてということになるでしょうが、どちらが先かというものでなく両方が必要です。

しかし、それ以外にも必要な、そして、それによって、人間生活はより意義あるものとして彩り豊かになる言語様態というのもあるのではないか。そんなことを考えるきっかけを病院で経験することがありました。

それは「よりそう言葉」とでもいえばいいでしょうか。

細かい設定は割愛しますが、リハビリの患者さんと担当者さんが時間になると窓辺にやってきて、ぽつりぽつりと言葉を交わしています。

「天気いいですねー」
「ここは、昔、ウサギを飼っていたんですよ」
「実験用かい?」
「ペットですよ。ウサギは頭がいいから、穴掘って逃げたりしてねー」

「天気いいですねー」
「もっと上の階だと富士山がきれいに見えるんですよ」

井戸端会議でも、そして、熟議や対話でもない。グローバル的w価値から判断すればまさに「無意味」「無意義」な言葉のやりとりです。

しかし、その一見すると意味のない言葉のやりとりが、人間によりそい、人間を--おおげさかも知れませんがーー生き生きとさせていく。

そういう言葉のやりとりもあるもんだなー、等々と感慨した次第です。

ものごとを早急に!
それは値打ちがあるのかないのか?

そういう尺度だけで物事が判断されるのが現代社会の特色といってよいでしょう。しかしそうしたものに逆行しようとするような「よりそう」言葉に人間を人間らしく導いていくヒントがある。

まあ、印象批判のひとつにすぎませんが、そんなことを感じた次第です。

なんだか小津安二郎の「お早よう」が見たくなりますね。


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