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書評:飯倉章『黄禍論と日本人 欧米は何を嘲笑し、恐れたのか』中公新書、2013年。


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 他に西洋列強諸国が勝利の要因として注目したのは、日本の愛国主義である。そのお様子を如実に示しているのが『パンチ』に載った「愛国心のレッスン」〔図6-19〕だ。日本の軍事的成功に、ジョンブルが「あなたの軍制度はみごとに機能しているように思われますな。いかに切り盛りしているのですかな」と尋ねている。芸妓姿の女性となったこと日本が「とても単純ですわ。我々とともにいる誰もが母国のために自分を犠牲にする用意ができています。ーーそしてそうするんです!」と答える。自己犠牲を厭わないという回答にジョンブルは驚き、「驚くべき制度ですな! 私も母国でそれを試し、導入しなければなりませんな」と言っている。
    --飯倉章『黄禍論と日本人 欧米は何を嘲笑し、恐れたのか』中公新書、2013年、141ー142頁。

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飯倉章『黄禍論と日本人 欧米は何を嘲笑し、恐れたのか』中公新書、読了。20世紀前半の脅威・陰謀論の代表の1つが黄禍論。本書は、日清戦争から第一次世界大戦後までの「風刺画」の表象を検討する誹謗中傷の言説史。日本の虚像と実像を描き出す一冊。図版も多く立体的に理解できる。

西欧列挙の帝国主義の背景に潜むのは文明/野蛮という二項対立だが、そこから生まれる脅威論が黄禍論。しかし文明に自信があれば脅威論は論理的に噴出しないはずだ。その錯綜した感覚を風刺画を辿ることで鮮やかに浮かび上がらせることに本書は成功している。

今日我々が理解する黄禍とは、世界秩序における後発国家・近代日本の伸張であるが、実際に西洋が怖れたのは日中連帯だ。しかし、日本は名誉白人的脱アジアを選択する。アジアに対して高圧的に振る舞い、一等国を怖れるねじれもここに起因する。

第一次世界大戦後、人種平等案を提出するのは日本だ。しかしその優越的眼差しは、次の大戦の内実を予告する。そして人種平等を謳う国連憲章は、中国や南米をはじめとする諸国の声によって反映されるには興味深いし、歴史的に「~禍」は日本だけでない等々、本書で教えられることは多い。

黄禍論の入手しやすい総論は、H・ゴルヴィツァー(瀬野文教訳)『黄禍論とは何か』中公文庫。こちらと併せてよみたい。


以下は少々蛇足。

(そもそも植民地主義を肯定する文明/非文明論と非文明論を脅威とする黄禍論の自家撞着がある訳けど)、黄禍論の絵画的表象のひとつがヴィルヘルム2世の『ヨーロッパの諸国民よ、汝らのもっとも真聖な宝を守れ!』。

以後、実は、これが様々なバリエーションをもって、「汝らのもっとも真聖な宝」を敵から守れ!!!となるのですが、それがアメリカになったり、イギリスになったりと様々。

ちなみに第一弾の忌諱対象は仏陀w

著者も指摘しているけど、そもそも東洋を仏教で表象することに無理があるし(19世紀後半のオリエントの宗教的多様さを参照せよ)、そもそも十字架のもとに集う神々wですら「一枚岩」ではないという話。しかし、龍の上にのった仏陀が脅威なのは、西洋にない概念としての「虚無」なんだろなとかw
※ショーペンハウエルのその過重なミスリードはいうまでもなく。

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