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覚え書:「引用句辞典 トレンド編 [通販番組に学ぶ]=鹿島茂」、『毎日新聞』2013年05月25日(土)付。


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引用句辞典
トレンド編
鹿島茂
[通販番組に学ぶ]

「便利」価値見失う
資本主義の不幸


 競争心、すなわちわれわれ自身が優越したいという熱心な欲求は、もともと、他の人びとの卓越にたいするわれわれの感嘆に、基礎を持っている。(中略)われわれはそれら(自分自身の性格と行動)を、他の人びとの眼で見ることに、あるいは、他の人びとがそれらを見そうだと思われるように見ることに、努力しなければならない。このような見方で見られたときに、もしそれらがわれわれにたいして、われわれが望むとおりに見えるならば、われわれは幸福であり満足するのである。
(アダム・スミス『道徳感情論(上)』水田洋訳、岩波文庫)

 少し旧聞に属するが、近年、おおいに驚いたのは通販大手の「日本直販」が経営破綻したというニュースである。テレビで司会者が「残りあとわずか!」とゼットすると、画面に「SOLD OUT」の文字が出てくるので、テレビ・ショッピングの会社はどこも大儲けしているように見えたからだ。通販番組にかければどんな商品も片端から売れていくような気がしていたが、これは誤りであったのか?
 それはさておき、BSやCSに限らず地上波のチャンネルも通販番組に占領されていると怒る人がいる。その気持ちは理解できるが、実はこれは的を外した怒りである。原則、タダで見られる民間放送というのは、番組にCMが付随しているのではなく、CMに番組が付随しているメディアだからである。
 だから、私はテレビに優れた番組を期待するのやめ、通販番組を社会勉強の道具として使うことにしている、。げんに、通販番組は資本主義の原理を教えてくれる。その一つは、資本主義が成熟すると使用価値は交換価値に転換するというものである。
 「日本直販」の主力商品が高枝切りばさみだったことからも明らかなように、長らく通販の主流は使用価値(使って便利)中心の隙間家具的な商品であった。視聴者が「あっ、これは便利」と思って電話をかけたのである。健康・痩身の器具や食品もこれを「使えば」これこれの効果が得られるということなのだから「使用価値」商品なのである。
 だが、通販番組をしっかり観察していると、「便利」や「効果」を売りにする使用価値の商品から、「交換価値」の商品、つまり他の人と差を付けられることを売りにした商品が着実に増えていることがわかる。その証拠に、これまでは通販番組にはなじまないとされていた女性服や宝飾品が次々に登場している。また、女性下着なども機能性ではなくデザイン性にシフトしているような印象を受ける。
 これが何を意味するかといえば、商品は使用価値から交換価値へと進歩するという資本主義の法則が通販においても通用したという事実である。高枝切りばさみは一家に一個あれば足りるが、衣服は新しいデザインの服が登場すればそれも欲しくなる。市場が飽和すると、使用価値から交換価値への切り替えが起こる所以である。
 アダム・スミスがいうように、他人の持っている商品を羨ましく思うのと同じように、他人も自分の手に入れた商品を羨ましく思うだろうと想像する視点を人が獲得したとき、資本主義の加速が始まったのである。しかも、こうした視点による幸福も想像力の産物だから、人はすぐに次の商品が欲しくなって不幸になるのだ。
 ことほどさように、通販番組は実に「勉強になる」のである。
(かしま・しげる=仏文学者)
    --「引用句辞典 トレンド編 [通販番組に学ぶ]=鹿島茂」、『毎日新聞』2013年05月25日(土)付。

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