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覚え書:「今週の本棚:村上陽一郎・評 『村山さん、宇宙はどこまでわかったんですか?』『宇宙はこう考えられている』」、『毎日新聞』2013年05月26日(日)付。

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今週の本棚:村上陽一郎・評 『村山さん、宇宙はどこまでわかったんですか?』『宇宙はこう考えられている』
毎日新聞 2013年05月26日 東京朝刊

 ◆『村山さん、宇宙はどこまでわかったんですか?』=村山斉・著、聞き手・高橋真理子(朝日新書・819円)

 ◆『宇宙はこう考えられている』=青野由利・著(ちくまプリマー新書・861円)

 ◇宇宙生成の謎をかみ砕いた科学記者の二冊

 才媛のサイエンス・ライター二人による、期せずして(でしょうね)ほとんど同じ(副題は、朝日本が「ビッグバンからヒッグス粒子へ」であり、筑摩本は「ビッグバンからヒッグス粒子まで」となっていて、まるで示し合わせたよう)内容の、しかも形態はどちらも新書という書物が相次いで刊行された。ちょっと珍しい現象だ。別の面からみれば、これらの書物で扱われているテーマこそが、今読書界のなかで、大きな関心を集めるものだ、ということにもなろうか。もっとも、こうしたブームとも言える現象の火付け役が、今回取り上げる朝日本の著者でもある村山斉さんである。CERN(欧州合同原子核研究所)での実験結果が、ヒッグス粒子なるものの存在の「確認」を導いた、というニュースが、昨年来、一般の新聞紙上をも賑(にぎ)わしてきたことも、ブームの追い風には違いない。しかし、この物理学や宇宙論のなかでも、最先端の、極端に難しいテーマを、日常的な表現で的確に説明、記述した村山さんのこれまでの啓発書(とりわけベストセラーの『宇宙は何でできているのか』)がなければ、この二冊もなかったであろう、とは推測できる。

 朝日本は、その村山さんを相手に、科学取材ではもうベテランの科学記者高橋さんが、宇宙の謎について、次々に切り込んでいく。村山さんは、例によって、コツンコツンだとか、ズブズブだとか、絶妙の擬態語を駆使しながら、実に判(わか)り易(やす)く答えていく。話題は、CERNの巨大な加速器から始まって、さすがに、問題のヒッグス粒子とは何か、についての対話までが、全体の半分近くを占める。かつて重力は、隠秘的な(オカルト的な)力とさえ言われたが、ようやく、ある種の合理性をもって語ることができそう、というところまできたのだから、お二人が興奮されるのも無理はない。

 あとは、現代物理学の基礎と、その宇宙生成論への応用に関する解説が重ねられていく。こうした話題にあまり馴染(なじ)みのない読者でも、何となく判ったような気分が味わえるのは、大きな特色で、随所に差し挿(はさ)まれた囲み記事様の個所も、読み応えがある。

 筑摩本は、本来はどちらかと言えばライフサイエンス系を主戦場としてきた青野さんが、科学記者の面目にかけて、この物理の難問に正面から取り組んだ意欲作である。やはりきっかけはCERNからのヒッグス粒子発見(?)のニュースである。朝日本が、対話形式であることも手伝って、エピソード主体で迫るのに対して、青野さんは歴史的・体系的な記述に重きを置いて、これも、少し違った判り易さではあるが、大変要領のよい解説を重ねる。当然ながら、青野さんの記述のなかにも、村山さんが登場するのも面白い。

 あとは、ビッグバン理論を導くに至った様々な天文学上の発見と、それを支える現代物理学理論のあらましが、これも読者が、そうだったのかと思えそうな筆致で描かれる。囲み記事風に挿まれるエピソードも、手法としては同じ。

 ただ、当然ながら両著で扱われる内容に大きな差はないものの、しかも基本的には素人を相手にした啓発のための書物でありながら、力点の置き方、説明の順序などには、それぞれ個性があり、味わいもある。読者としては、こう出揃(そろ)ったのを幸いとして、両著を揃えて読んでみるのが、幸便というものではないか。
    --「今週の本棚:村上陽一郎・評 『村山さん、宇宙はどこまでわかったんですか?』『宇宙はこう考えられている』」、『毎日新聞』2013年05月26日(日)付。

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http://mainichi.jp/feature/news/20130526ddm015070040000c.html


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