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覚え書:「書評:『幸せ』の戦後史 菊地 史彦 著」、『東京新聞』2013年5月26日(日)付。

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「幸せ」の戦後史 菊地 史彦 著

2013年5月26日

[評者]藤井淑禎=立教大教授
◆厚い論述、ほろ苦い着地点
 四百ページを超える大部の戦後史入門書である。巻末には各章で引用・参考にされた文献が目録化されており、これだけでも堂々たる戦後史関連文献目録として利用できる。そればかりでなく、章ごとの註(ちゅう)の充実ぶりも大変なものがある。ここは一種の戦後史事典として重宝したい。たとえばパラサイトシングルやアメリカのリストラについて関連の言説が史的に整理されており、へたな事典顔負けの内容だ。
 肝心の本体部分だが、「戦後史」と銘打つだけあって、また文献目録や註の充実ぶりとも見合って、扱う時代も、硬軟取り混ぜた内容も、幅広く網羅されている。ふつう戦後史というと、かつては政治史にかたより、いまは大衆文化などにかたよりがちだが、本書の硬軟のバランスの良さは、類書にはない卓越した目配りの賜物(たまもの)だろう。
 全体は三部構成で、各部は三章構成となっている。第1(ローマ数字の1)部は「壊れかけた労働社会」で、一九九○年代以降のリストラ、雇用形態差別、職場の居心地悪化が考察される。第2(ローマ数字)部は「家族の変容と個の漂流」で、戦後すぐから七○年頃までの上昇志向、その挫折を受けてのオタク文化の台頭、それに続くオウム事件に象徴される「強い個」志向が紹介される。第3(ローマ数字の3)部は「アメリカの夢と影-労働・消費・文芸」で、ふたたび日本的経営、消費社会、大国アメリカとの経済や文化をめぐる「たたかい」の歴史が論じられる。
 素材として各章でふんだんに取り上げられる映画やアニメ、文学などの分析も見事に各章に活(い)かされており、読者はそれらに導かれて戦後史のさまざまな局面を自分史と照らし合わせながら振り返ることになる。ただし、本書の着地点はさほど明るいものではない。終章では疎外された自己像の系譜がたどられ、それが巻頭のリストラ社会へとつながる現代日本社会像が念押しされているからだ。その意味でタイトル中の「幸せ」は、多分にほろ苦さを伴ったものでもあったのである。
 きくち・ふみひこ 1952年生まれ。企業コンサルタント。
(トランスビュー・2940円)
◆もう1冊 
 江藤淳著『成熟と喪失』(講談社文芸文庫)。第三の新人の小説作品から母と子の関係を分析し、戦後市民社会を論じた評論。
    --「書評:『幸せ』の戦後史 菊地 史彦 著」、『東京新聞』2013年5月26日(日)付。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2013052602000184.html

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