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覚え書:「書評:カフカと映画 [著]ペーターアンドレ・アルト [評者]佐々木敦」、『朝日新聞』2013年05月26日(日)付。

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カフカと映画 [著]ペーターアンドレ・アルト
[評者]佐々木敦(批評家・早稲田大学教授)  [掲載]2013年05月26日   [ジャンル]歴史 ノンフィクション・評伝 


■『城』の舞台発見?踏み込む論証

 前世紀のはじめ、若きフランツ・カフカは、昼間は公務員として働き、夜はのちに文学史上の大事件と見なされることになる数々の小説と、そのもとになる創作メモ、日記や手紙などを書いていた。ではそれ以外の時間、彼は何をしていたのか。カフカはプラハの街に繰り出し、友人と語り、呑(の)み、食事し、そして映画を観(み)ていた。
 ベルリン自由大学の学長を務める著者は、カフカの日記や手紙から映画にかんする記述を拾い出し、そこで言及されているカフカが実際に観たとおぼしき映画を調べ上げ、カフカの小説が、ちょうど揺籃(ようらん)期にあった同時代の映画に、いかに影響されていたかを検証してみせる。同様の観点に立つ本は過去にもあったが、この本の論証と推理がもたらす知的スリルは半端ではない。なにしろカフカの『城』のモデルになったかもしれない実在する城を発見してしまったのだから。
 当時まだ生まれてまもない映画の特性(撮影と映写のメカニズム、ショットとその編集という技法など)と、無声映画の他の芸術とは異なる感情表現やドラマツルギーの、カフカの小説との類似性。あの独特な文章と、奇妙だが生々しい叙述は、言われてみれば確かに映画的だ。だがそれを単なる同時代性としてではなく、更に踏み込んで論じている点に本書の白眉(はくび)がある。
 1921年の夏、カフカは肺病治療のためサナトリウムに滞在した。そこから遠くない場所にオラヴァ城という城があった。カフカがその城を訪ねたという証拠はない。だが『城』の舞台は確かにオラヴァ城に似ている。そしてこの城は、F・W・ムルナウ監督の傑作「吸血鬼ノスフェラトゥ」の撮影場所だった。つまり私たちはムルナウの映画でカフカの小説の「城」を見ることが出来るのだ。そう著者は推論している。大胆な仮説だが、実に面白い。カフカの読み方が変わってしまいそうである。
    ◇
 瀬川裕司訳、白水社・3570円/Peter-Andre Alt 60年生まれ。ベルリン自由大学学長。
    --「書評:カフカと映画 [著]ペーターアンドレ・アルト [評者]佐々木敦」、『朝日新聞』2013年05月26日(日)付。

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http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2013052600012.html

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