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覚え書:「書評:秀吉の出自と出世伝説 渡邊大門著」、『東京新聞』2013年06月09日(日)付。

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【書評】

秀吉の出自と出世伝説 渡邊大門 著

2013年6月9日

◆親しみやすさ、残酷さの謎
[評者]伊東 潤=作家
 日本史上において、秀吉ほど毀誉褒貶(きよほうへん)の激しい人物はいない。いまだにその人格や人間性の評価は一定しない。その輝かしいばかりの前半生と、天下人となった後の疑心暗鬼に囚(とら)われた後半生は好対照をなしており、それが秀吉の評価を二分するのだ。
 そもそも秀吉ほど謎に包まれた人物も珍しい。その出自の謎はもちろん、なぜ出世街道を驀進(ばくしん)し得たのか、なぜ残虐な行為を好んだのか、なぜ公家になろうとしたのか等々、興味は尽きない。そうした秀吉の様々な側面にメスを入れ、秀吉の実像を浮かび上がらせようというのが本書である。
 秀吉については服部英雄『河原ノ者・非人・秀吉』という大作があり、そちらは中世社会の視座から秀吉という人間を見つけ出していくというアプローチを取る。一方、本書は秀吉に関する史料を徹底的に解析し、そこから人間秀吉をあぶり出していく。これは、著者の近著『信長政権』(河出ブックス)における方法と同じである。
 そもそも陽気で親しみやすく「人間性豊かな英雄」というイメージは、虚像とまでは行かないまでも、よい部分ばかりが伝えられてきた、と著者は言う。後年の残虐な行為の数々も、信長に倣ったというより、その出自の卑しさからくる不安を払拭(ふっしょく)するために行われたものだと喝破する。
 つまり、出世する過程で受けてきた様々な侮蔑や屈辱を克服するためには尋常ならざるエネルギーを必要とし、その反動で高圧的な態度や残虐な行為に及び、遂(つい)にはそれが、一度は次代を託した関白秀次一家の悲劇や、朝鮮半島への進出へと向かったというのだ。まさに卓見であろう。秀吉一個にすべてが集中した権力構造は秀吉自身でしか統御できず、その死後、跡形もなく崩壊する。
 最後に著者はこう書いている。「もしかしたら、秀吉は生涯を貧しいまま過ごしたほうが幸せだったのかもしれない」。けだし同感である。

 わたなべ・だいもん 1967年生まれ。歴史学者。著書『戦国誕生』など。
(洋泉社歴史新書y・945円)
◆もう1冊 
 山本博文ほか編著『消された秀吉の真実』(柏書房)。豊臣政権の家臣群像、後の徳川史観とは異なる秀吉の実像に迫った歴史論集。
    --「書評:秀吉の出自と出世伝説 渡邊大門著」、『東京新聞』2013年06月09日(日)付。

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[http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2013060902000165.html:title]


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