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覚え書:「記者の目:生活保護法改正案=遠藤拓(東京社会部)」、『毎日新聞』2013年06月19日(水)付。


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記者の目:生活保護法改正案=遠藤拓(東京社会部)
毎日新聞 2013年06月19日 10時39分

 ◇現場の不安に向き合え

 新しい「最後のセーフティーネット」は、各地で相次ぐ餓死や孤立死といった悲劇を未然に防げるのだろうか。

 1950年の施行以来初となる生活保護法の抜本改正案が、終盤を迎えた国会で審議されている。働く受給者への支援を手厚くして生活保護からの脱却を促す一方、親族の扶養義務を強調する内容だ。厚生労働省は「必要な人に確実に保護を実施する考えを維持しつつ、制度が国民の信頼に応えられるようにする」と説明するが、改正案は受給者への締め付けを強めたような印象を受ける。必要とする人が受けやすくなったとは言い難いのではないだろうか。

 ◇バッシング受け、受給者引き締め

 改正案の中身はこうだ。就労による自立を促すため、生活保護から脱却した時点で支給する給付金を創設する。保護の申請時には、扶養義務がある親族の状況を記した書面の提出を義務付ける。自治体については、親族に扶養状況の報告を求めることを可能とし、親族の財産や収入に関する調査権限も拡大する--。

 民法の規定により、両親や祖父母、子ども、孫といった直系血族と兄弟・姉妹には、互いの暮らしを助ける義務がある。保護の要件ではないが、改正案ではこの扶養義務が大幅に強調されることになった。また、改正案は受給者に健康保持や家計管理の努力義務を課し、安価な後発医薬品(ジェネリック)の利用を促すとともに、不正受給に対する罰則を引き上げている。

 受給者側を引き締める条文が並んだ背景には、昨春から続く「生活保護バッシング」があるのだろう。芸能人が生活保護を受ける母親への扶養義務を果たさなかったことが、不正受給であるかのように批判され、自民党も生活保護に厳しい姿勢を打ち出した。厚労省は法改正が締め付け一辺倒とならないよう模索してきたが、流れを変えるものにはならなかった。

 これに対し、当事者や支援団体の声は一様に切実だ。「国は『最後のセーフティーネット』を刑務所に任せようとしているのか」。改正案が閣議決定された5月17日、ドメスティックバイオレンス(DV)被害にあった元受給者の女性は首相官邸前で抗議した。改正が実現すれば、DVから逃げた自分のような女性は、元夫との接点ができることをおそれて受給をあきらめ、食べるのに困って犯罪に手を染めてしまうかもしれないという趣旨だった。 

 「法改正により、窓口で申請を門前払いする『水際作戦』が強化される」。多くの支援団体はそう指摘する。厚労省は否定するが、私もNPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」の協力で、何度か生活保護の申請に同行した経験から、同じ危惧を抱く。生きる糧を失った人々にとって、自治体のケースワーカーは生殺与奪の権を握った「絶対権力者」だ。悪意はなくても、彼らが扶養義務を強調すれば、家族との関係がこじれた人に申請を自粛させるのはそう難しくない。

 ◇「弱者だけ排除」担当者も懸念

 意外なことに、自治体関係者も、改正案を必ずしも肯定的にはとらえていない。「就労による自立促進は評価できるが、扶養義務に関して調べることが増え、ただでさえ人手が足りない職場をさらに忙しくする」。ケースワーカーを指導する立場にある中核市の査察指導員の感想だ。東京都区部のワーカー経験者は「悪意のある不正受給を察知できないまま、立場の弱い申請者だけが排除されるおそれがある」と警鐘を鳴らす。ある県の関係者は「しゃくし定規に運用すれば、間違いなく水際作戦の強化につながる」と認めた。

 立場こそ違うが、受給者側と自治体側は法改正の影響をもろに受けることになる。だから思う。厚労省は本当に、こうした現場からの声を法改正に生かそうとしたのか、と。振り返れば受給者も自治体の実務担当者も、制度見直しを議論する社会保障審議会(厚労相の諮問機関)特別部会の委員に含まれていなかった。制度の抜本見直しにはそれで事足りると判断したならば、残念だというほかない。

 生活保護受給者は3月時点で216万人超と過去最多を更新し続けている。改正案とセットで国会審議が続く「生活困窮者自立支援法案」が成立し、一歩手前で踏みとどまる仕組みが整っても、生活保護の重要性は変わらない。

 厚労省は改正案成立をゴールと思わず現場の不安や懸念に向き合ってほしい。張り替えた安全網が機能不全を起こすのを見たくはない。
    --「記者の目:生活保護法改正案=遠藤拓(東京社会部)」、『毎日新聞』2013年06月19日(水)付。

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[http://mainichi.jp/opinion/news/20130619k0000e070174000c.html:title]

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