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書評:R・E・ルーベンスタイン『殺す理由 なぜアメリカ人は戦争を選ぶのか』紀伊國屋書店、2013年。


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 別の言い方をするなら、戦争は通常アメリカ国民に対して、この市民宗教の諸原理によって--要求されないまでも--正当化されるものとして売りこまれるということだ。社会学者のロバート・N・ベラー〔一九二三生〕によれば、市民宗教とはものの見方や信念や行動の大まかな体系を意味し、組織化された宗教と同じではないが重複する部分を有し、国家のアイデンティティーに倫理的次元を提供する。
    --R・E・ルーベンスタイン『殺す理由 なぜアメリカ人は戦争を選ぶのか』紀伊國屋書店、2013年、55-56頁。

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R・E・ルーベンスタイン『殺す理由 なぜアメリカ人は戦争を選ぶのか』紀伊國屋書店、読了。米国の歴史とは戦争を選択してきた歩みである。本書は、紛争解決学の著者は通俗的なドクサを退けながら、米国の歴史を辿るなかで集団的暴力が「道徳的に」正当化されてきた文化的・社会的要因を探る。

「なぜアメリカはかくも憎まれるのか」はイコール「なぜアメリカはかくも戦争ばかりしたがるのか」である。著者はフロンティア征服欲に観られる通俗的な文化論を一蹴する。戦争を選ぶには確固たる理由があるのだ。

実利にさといはずのアメリカ人が戦争を容認してきた理由は、それが道徳的に正当化されると納得したときに戦争が選択されるという。本書は「自衛」「愛国」「道徳」の側面からその経緯を浮き彫りにする。

著者は米国史を振り返りながら一つの共通点を見出す。それは、関わっていこうとする戦争が道徳的に正しいか否かの判断について最も大きな影響を与えているのはアメリカの市民宗教(ベラー)ということ。

国家統合としての「見えざる国教」による承認が満たされた場合、戦争へ舵を切り、人々は献身していく。市民宗教は最良の形で表出することもあれば逆もある。そして為政者はそれをコントロールする。

平和を創出するためには、原論に直結した議論も必要でろう(日本ではこれがミスリード)。著者の議論は、平和原論に対して極めて辛辣かつ挑発的な「実践さ」が特徴だが、省りみられない深部にメスを入れる。


 


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 私たちアメリカ人は通常なら、かなり実利にさとい国民である。遠隔地の貧しい人々に寄付してほしいとか、地元の警察官や消防士を支援してほしいと求められると、寄付金のどれほどが実際にくだんの目的で使われるのか、どれほどが何者かのポケットに入るのかを知りたがる。ところが、異国の地で戦うために息子や娘や恋人を供出せよと求められると、愛国心的心情か何らかの抑制因子が働いて、同様の実際的な質問をすることをしばしば思いとどまってしまう。誰が戦争から利益を得るのか? 私たちが戦うか否かを決する際に、どれほどの軍のキャリアや民間人の雇用、企業役員の給料や株主の配当が、その決定に左右されるのか? 私はけっして、おおかたの戦争は純粋に私的な利益のために遂行されると言っているのでも、誰かを必然的に豊にする正義の戦争はありえないと言っているのでもない。だが、あるケースに利害を有することは、それをどのように評価するかに影響を及ぼす。だからこそ、判事その他の公僕はそうした利害を開示することを期待されている。要するに、私たち一人ひとりが和戦いずれかを決する際に考慮できるように、主戦論者が戦争にいかなる利害を有しているのか、私たちは彼らにそれを開示するよう要求しなくてはならないのだ。
    --R・E・ルーベンスタイン『殺す理由 なぜアメリカ人は戦争を選ぶのか』紀伊國屋書店、2013年、266-267頁。

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