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覚え書:「今週の本棚:白石隆・評 『オバマと中国』=J・A・ベーダー著」、『毎日新聞』2013年07月14日(日)付。


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今週の本棚:白石隆・評 『オバマと中国』=J・A・ベーダー著
毎日新聞 2013年07月14日 東京朝刊

 (東京大学出版会・2625円)

 ◇対アジア政策「戦術的」決定の内幕

 オバマ大統領の外交政策チームの一人として、2009~11年、国家安全保障会議(NSC)のアジア担当上級部長を務めた人物の回顧録。著者とはわたしも何度か会ったことがあるが、穏やかで自己抑制の効いたバランスのとれたチーム・プレイヤーで、かれのかつてのボスで、まさに傍若無人、自己主張のひじょうに強かったリチャード・ホルブルックとはまるで対照的な人物である。

 おそらくそういう人柄も反映しているのであろう、中国が台頭しつつあるアジアについて、オバマ大統領がどのような政策を遂行したか、歴史家が将来、この問題を理解しようとする際、その一助となるよう、自分の経験を述べておく、そういう立ち位置で著者は本書を書いている。本書は、その意味で、オバマ政権のアジア政策が実務家レベルでどのように決められたのかを理解するのに大いに参考になるし、読み物としてもおもしろい。ここではスペースの関係上、その例を一つだけ挙げておく。

 つい先日、ブルネイのASEANプラスの会合でも懸案となった南シナ海領有権問題についての米国の政策である。米国は2010年、南シナ海問題について政策を転換した。それまで米国の政策は、南シナ海の領有権問題について米国はいかなる特定の立場もとらない、というものだった。著者は、これはあまりに受け身で、米国の利益について「重要な配慮に欠け」ている、と考えた。南シナ海では、中国と東南アジア諸国、特にベトナム、フィリピンとの間で、漁船の拿捕(だほ)、原油・ガス資源探査の妨害等、事件が頻発していた。2010年2月には、国務副長官ジェームズ・スタインバーグと著者に対し、中国の外務副大臣が南シナ海における中国の「疑問の余地のない領有権」を主張した。そのため、著者はカート・キャンベル国務次官補と協議し、2010年7月にハノイで開催されるASEAN地域フォーラム(ARF)を念頭に関係省庁横断会議を立ち上げた。南シナ海領有権問題への米国の関与はここで策定された。クリントン国務長官は、ARFにおいて、米国はいかなる領有権争いにも特定の立場は取らないという政策を確認するとともに、「航行の自由などを米国は死活的な利益とみなす」と述べた。中国は2010年9月には南シナ海における行動規範について専門家会合を開催する意向を表明した。そのため著者は「外交交渉が始まったということは、中国がこの地域において攻撃的な姿勢を見せても高くつくだけだと悟ったことを意味していた。」と言う。この評価には異論もあるだろうし、わたしは甘いと思う。実際、南シナ海における行動規範の作成はまだはじまってもいない。しかし、それでも、2010年7月のクリントン長官の声明の重要性は疑いない。

 著者は、国家安全保障政策とは「戦術的な決断」の積み重ねで、戦略などというものはない、かりに戦略的なビジョンなるものが求められるとすれば、それは「よく練られた特別な戦略を備えた計画」というより「米国の国益を熟慮した結果」である、という。政府内にいれば、そう見えるのだろう。しかし、「戦略的思考」は確実にある。基本原則も明確に定義されている。オバマ政権において、アジア政策の「戦術的」決定が、どのような戦略的思考と基本原則に基づき、どのようなスケジュールの下、だれをプレーヤーとしつつ、行われたか、それを理解する上で、本書はひじょうに参考になる。(春原(すのはら)剛訳)
    --「今週の本棚:白石隆・評 『オバマと中国』=J・A・ベーダー著」、『毎日新聞』2013年07月14日(日)付。

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[http://mainichi.jp/feature/news/20130714ddm015070032000c.html:title]

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オバマと中国: 米国政府の内部からみたアジア政策
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