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覚え書:「書評:ヤマネコ・ドーム 津島佑子 著」、『東京新聞』2013年6月30日(日)付。

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【書評】

ヤマネコ・ドーム 津島佑子 著

2013年6月30日


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◆血や国を超越する関係性
[評者]与那覇恵子=東洋英和女学院大教授、現代日本文学
 本書は、気を緩めてしまうと一瞬、どの時代のどこに居るのか分からなくなってしまうほど、三人称の多声が響きあう巧妙な語りで展開されていく。
 登場する人物も多彩である。戦後に米兵と日本女性との間に生まれたミッチとカズ、ミキなど多数の「混血孤児」。母子家庭のヨン子とター坊。ブリトン人とアイヌの女歌手。ブルターニュの「魔法使い」に、城館の女主。時間と空間は錯綜(さくそう)しつつも、ベトナム戦争や湾岸戦争、チェルノブイリに9・11、ケネディの暗殺事件などの、世界への参照点が織り込まれている。
 冒頭の現在時は3・11後の五月。場所は、見えない放射性物質に汚染されている東京。六十歳を過ぎたミッチとヨン子は、世界の変異を眼にして八歳と七歳の時に遭遇した、オレンジ色のスカートを池の水に浮かべて死んだミキちゃんの記憶を呼び起こす。子供たちにオレンジ色は原発の爆発のように、一瞬にして安穏な生活にひびを入れた禍々(まがまが)しいものとして共有された。
 その感覚を最も体現していたのが殺人犯と目された九歳のター坊である。数年に一度の発作と、それに関連するかのようにオレンジ色を身につけた女性が殺害されるがそれに説明はない。ター坊は、放射能に代表される見えないものの脅迫から逃げられず、破壊的になっていく力を表すのであろうか。
 最後は、ター坊の死後「放射能の煮こごり」のような部屋で暮らす彼の母親を、ミッチとヨン子が連れ出す場面で終わる。行く先は、植物や動物や生者や死者が共に生存するブルターニュの森がイメージされている「ヤマネコ・ドーム」ということになろうか。絶望の中に血にも国にもこだわらない新しい関係を築こうとする希望の声が聞こえる。
 戦後六十年の世界の経験と彼らの経験との重なりによって、致命的な暴力性が潜在する私たちの生きてきた歴史を改めて辿(たど)り直す物語となっている。
 つしま・ゆうこ 1947年生まれ。作家。著書『火の山-山猿記』など。
(講談社・2100円)
◆もう1冊
 津島佑子著『葦舟、飛んだ』(毎日新聞社)。団塊の世代で幼なじみの男女五人が付き合いを再開し、戦争の時代の影をたどる物語。
    --「書評:ヤマネコ・ドーム 津島佑子 著」、『東京新聞』2013年6月30日(日)付。

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