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書評:伊藤順一郎『精神科病院を出て、町へ ACTがつくる地域精神医療』岩波ブックレット、2012年。

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伊藤順一郎『精神科病院を出て、町へ ACTがつくる地域精神医療』岩波ブックレット、読了。従来、精神疾患をもつ人々への治療は閉鎖病棟での長期入院が担ってきたが、本書は、近年注目を浴びる地域生活に根ざした訪問医療(ACT)プログラのを最前線を紹介。精神医療の概念を変える試みだ。

ACTとは「包括型地域生活支援プログラム」のこと。医師、看護師、作業療法士や精神保健福祉士などがチームを組み、地域社会の中で訪問し、精神障害をもつ人々の治療やケアにあたる方法のこと。訪問医療の導入は成果をあげつつある。

閉鎖病棟での治療から地域社会での治療とは「病気が主人公」から「その人が主人公」への転換。「精神医療は『生活を立て直す』支援を含んでこそ、地域生活の中で訳に立つ支援となりうる」。入院中心の医療ではなかなか得られない視点。

ACTにおいて大切にされるのは「言葉の役割」。慢性的なスタッフ不足の医療現場で医師や看護師と患者が言葉が交わすのはせいぜい一日数回。言葉のやりとりでつくられる信頼という文脈で治療を一緒にやっていくのは対照的だ。

戦後日本の精神医療は「隔離」が国是であるといってもよい。見えなくさせることで解決できるわけではない。ACTの試みは精神医療の概念だけでなく、精神疾患を取り巻く社会の認識を転換する試みでもある。戦後医療史の叙述も参考になる。

日本の精神医療の特徴とは国の方針として精神科病院の運営を民間に任せてきたこと。昭和25年精神衛生法の施行は私宅監禁を禁じたが、代わりに病院での隔離へ。都道府県に公的病院設置を求めたもののままならず、結局「医療法の精神科特例」で病院を作りやすくして民間に委せることに。

精神科における精神科医の配置基準は一般の1/3、看護師も2/3でよいこととされ、昭和35年に医療金融公庫(現・福祉医療公庫)が設立されると精神科病院はハイペースで増加。高度経済成長の時代、結局は「労働力として期待できない人々」を大量に収容することが目的となったといってもよい。

こうした歴史は、日本の精神科病院が「治療的な装置」ではなく「隔離する装置」として大量に設置されたことを物語り、措置入院(全額公費)が甘く適用された状態は、民間病院といいながら競争原理が働くわけでなくもなく、元々「少ないスタッフ」による病棟」の構造は、治療を阻むものになった、か。


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