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覚え書:「書評:言葉が立ち上がる時 柳田 邦男 著」、『東京新聞』2013年08月04日(日)付。


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言葉が立ち上がる時 柳田 邦男 著

2013年8月4日


◆命懸けで紡いだ言葉の力
[評者]姜信子=作家
 「言葉への旅に出よう」。柳田邦男さんのその声に、私はあの人たちのことを想(おも)わずにいられない。3・11から一年後のなにもない廃墟(はいきょ)の陸前高田で、「あのとき、私たちは言葉も津波に流されてしまいました」と、精一杯(せいいっぱい)の心でそっと語ったあの人たち。一見この世には言葉が溢(あふ)れているというのに、あの人たちはチリジリバラバラの言葉の廃墟に立っている。その声を聞いた私も、どうやら言葉を失(な)くしている。
 そう、私たちは命が言葉を見失った時代に生きている。生き直し、結び直す言葉を切実に求めている。だからこそ、柳田さんも、言葉が生まれくる根源へと、意を決して旅に出た。
 たくさんの生と死、哀しみと歓び、胸に食い込む言葉たちに出会うこの旅のはじめに、柳田さんは「待つ」ということを考える。人間を襲う理不尽をめぐって真に問うべきことを思う。問う時間は待つ時間。命の物語が生まれいずるのを待つ時間なのだと言う。
 思えば、人間は、遙(はる)か昔より無数の生と死の物語を紡いできた。千年前の歌の言葉がその情感とともに脈々と受け継がれてきたように、私たちには集合的無意識とも言うべき美学や情緒の様式があり、それは無数の命の物語を育む豊かな森でもあった。
 そしてなにより、極限状況の中で言葉を紡ぎだしてきた人々がいる。たとえば、死に至る病に向き合う時間の中で、原発避難を強いられた福島で、ナチスの強制収容所で、彼らは「人生の意味を問う者」としてではなく、「人生に問われている者」として命がけで問いに向き合う。生と死のはざまから、命を支える言葉をつかみだす。強制収容所を生き抜いたフランクルの言葉を引いて、そう柳田さんは語るのだ。
 こうして言葉は生まれて、読まれ、書かれ、人を結んで、千年も二千年も先へと脈々と命の物語を紡いでゆく。柳田さんと旅してたどりついた、その遙(はる)かな光景を前につくづくと思う。命がけの言葉はわれらの希望なのだと。
(平凡社・1575円)
 やなぎだ・くにお 1936年生まれ。作家。著書『言葉の力、生きる力』など。
◆もう1冊 
 小森陽一著『ことばの力 平和の力』(かもがわ出版)。漱石や賢治らの作品から、ことばをめぐる個人と国家の関わりを読む。
    --「書評:言葉が立ち上がる時 柳田 邦男 著」、『東京新聞』2013年08月04日(日)付。

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