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覚え書:「そこが聞きたい:麻生副総理「ナチス」発言 ゲプハルト・ヒールシャー氏」、『毎日新聞』2013年08月14日(水)付。


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そこが聞きたい:麻生副総理「ナチス」発言 ゲプハルト・ヒールシャー氏
毎日新聞 2013年08月14日 東京朝刊


 ◇過去に決着、意思欠如--元南ドイツ新聞極東特派員、ゲプハルト・ヒールシャー氏

 憲法改正を巡ってナチス政権を引き合いに出した麻生太郎副総理兼財務相の発言=1=が波紋を広げている。日本に40年以上住む元南ドイツ新聞極東特派員のゲプハルト・ヒールシャーさんに日独の歴史観の違いなどを聞いた。【聞き手・青島顕】

--麻生副総理の発言をどう聞きましたか。

 歴史の基本的問題が何も分かっていないと思います。第一次大戦後のドイツでは、世界恐慌の影響で失業者が増大し、政党政治へのあきらめが広がりました。普通の政党による政権が機能しない状況になって、リベラルな民主主義を認めたくない人たちがナチスを台頭させたのです。ナチスは全権委任法によって民主的なワイマール憲法を事実上つぶし、独裁国家になりました。第二次大戦後、その反省から連邦憲法裁判所が作られ、権力をけん制し、民主的な憲法を守るようになったのです。

--ドイツでは発言がどのように受け止められていますか。

 基本的には「信じられない」という反応です。内閣で重要なポストに就く人が、(民主主義の手続きなど)憲法の基本的姿勢に反する発言をすることなど、あり得ません。ドイツではナチスを称賛する言動は法律で禁止されており、ナチスを引き合いに出すのは、「ネオナチ」など一部の右翼的な人たちだけです。ドイツで大臣がこんな発言をすれば、大きな騒ぎになり、辞任に追い込まれていたでしょう。

--日本とドイツはいずれも第二次大戦の敗戦国ですが、責任の取り方に違いがありますか。

 私は両国の戦後処理を整理して論じたことがあります。対照的な点は三つです。(1)ドイツの裁判所は1958年以降、自国の戦争犯罪を告発、6500人が有罪になりましたが、日本は自ら追及していません(2)ドイツには教科書に何を書くべきか検討する公的機関があり、かつての敵国と一緒に、歴史教科書の内容を検討し、それに伴って記述を改訂しました(3)ドイツは53年に連邦補償法を制定し、ナチ犠牲者に補償してきました。東欧からの強制労働者に対し、2000年に政府と産業界との共同出資で財団を設立する法律を定め、補償してもいます。以上3点は過去と決着をつける政治意思の表れです。一方、日本はこうした点で過去と向き合うことを避けがちで、政治的な意思も欠けていると思います。

--両国の違いは、なぜ生じるのでしょうか。

 ともに戦後、外国に占領されましたが、日本は一つの国として残りました。ドイツは私が生まれた東プロイセンを含め、自国領土の24%を失ったうえ、二つの国に分断されました。国家が継続した日本に比べ、ドイツは新しい出発をして、「悪い」過去に対する区切りが意識的に行われたのです。

--麻生氏の発言は憲法改正を巡るものでした。ドイツは憲法にあたる「ボン基本法」=2=を多数回改正している一方、日本は一度も憲法を改正していません。日本は改憲のハードルが高いという議論も出ています。

 ドイツは戦後59回改憲していますが、人権尊重など基本構造を変えたことはありません。東ドイツと統一した後は、州の数の変更に伴う改正がありました。ハードルが低いわけではなく、連邦議会、連邦参議院で、それぞれ3分の2以上の賛成が必要です。政治的に対立する点では改正は困難です。少なくとも保守的なキリスト教民主同盟・社会同盟とリベラルな社会民主党という立場の異なる2大勢力が合意しなければ、改憲はできません。

--日本に憲法改正の機運が高まっていると思いますか。

 国民の多くが日本国憲法改正を望んでいるとはいえないでしょう。私は改憲が許されないとは考えていませんが、基本構造を簡単に改正すべきだとは思いません。改正手続きを定めた96条を緩和して、今より容易に変えられるようにすべきだとも思いません。

--日本の政治家に言いたいことはありますか。

 自民党の政治家にも、過去と向き合う意思を持った人はいました。90年代の宮沢喜一首相や河野洋平官房長官は、慰安婦問題に取り組みました。彼らの姿勢が、償いのための基金作りや首相のおわびの手紙につながりました。それより前の世代の大平正芳首相も同じでした。今の政治家からはそうした思いが伝わってきません。逃げないという意思さえあれば、日本も今からでも過去と向き合うことができると思います。

--麻生氏の発言を巡る日本国内の報道はドイツなど国外での声を受けてから大きくなりました。

 日本人の間で戦争や歴史について基本的な認識が共有されておらず、発言の異常さに気づかなかったのかもしれません。もっと早く自発的に報道し、問題から目をそらすべきではなかったと思います。

 ◇聞いて一言


 日本は第二次大戦後、生まれ変わったと理解してきた。憲法も天皇主権、帝国主義から国民主権、平和主義に改められた。ところが、分断されたドイツに育ったヒールシャーさんは「日本は戦後も国が継続している」と言い、あいまいな戦後処理の根源をそこに見る。68年たつのに置き去りにされていること、小さな声を上げている人たちの話に耳を傾け、今からできることを考えなければならないと思う。こっそりと元に戻す前にやるべきことはたくさんある。

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 ■ことば

 ◇1 麻生副総理の「ナチス」発言

 改憲と国防軍の設置などを提言する「国家基本問題研究所」が7月29日、東京都内で開いた討論会で「ドイツのヒトラーはワイマール憲法という当時ヨーロッパで最も進んだ憲法の下で出てきた。ワイマール憲法はいつの間にかナチス憲法に変わっていた。あの手口、学んだらどうかね」と発言。「誤解を招いた」と撤回したが、5野党が罷免を求めた。

 ◇2 ボン基本法

 戦後、東西に分かれたドイツのうち、西ドイツで1949年に作られた憲法。各州代表で組織した評議会がボンで制定し、米英仏3国の軍司令官が承認した。90年までに35回改正された。ドイツ再統一の際、適用範囲を旧東ドイツを含む全域に改めて、現在まで存続している。

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 ■人物略歴

 ◇Gebhard Hielscher

 1935年、東プロイセンの旧ティルジット(現ロシア領)生まれ。67年来日。71~2000年、南ドイツ新聞特派員。日本外国特派員協会会長も務めた。
    --「そこが聞きたい:麻生副総理「ナチス」発言 ゲプハルト・ヒールシャー氏」、『毎日新聞』2013年08月14日(水)付。

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[http://mainichi.jp/select/news/20130814ddm004070008000c.html:title]

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