« 覚え書:「ルイス・ブニュエル [著]四方田犬彦 [評者]佐々木敦」、『朝日新聞』2013年08月11日(日)付。 | トップページ | 覚え書:「ドゥルーズの哲学原理 [著]國分功一郎 [評者]いとうせいこう」、『朝日新聞』2013年08月11日(日)付。 »

覚え書:公共哲学としての南原繁

101

-----

 東京大学総長を務めた南原の場合、内村鑑三(一八六一-一九三〇)の流れをくむ無教会派キリスト教の影響とともに、カントの永遠平和思想とフィヒテの抵抗のナショナリズムの双方から強い影響を受けていました。前章でみたように、双方の公共哲学は相違いますが、南原は双方のメリットを活かすかたちで、日本の進路を考えたのです。
 すでに戦前に南原は、ナチズムなどの血縁共同体的社会観に抗して、フィヒテのいう「Nation(国民、民族)」が血縁ではなく、個々人の自由な創造的行為によって創出される「文化共同体」であることを強調しました。そして戦後は、フィヒテの『ドイツ国民に告ぐ』を思わせるようなかたちで、「道義国家」としての新しい日本の誕生を国民に訴えたのです。
 そしてそのために彼は天皇の人間宣言を歓迎しつつも、昭和天皇が戦争責任をとって退位する見解に与し、GHQが一方的に押しつけた憲法を丸呑みするのではなく、一定期間を経た後の国民投票によって施行されるべきだと主張しました。このように彼は、「個人の自律的判断」と「文化共同体としての新しい日本国の創造」を不可分とする公共哲学をとなえたのです。
 南原は「教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値をたつとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行わなければならない」と第一条にうたった一九四七年施行の教育基本法の起草にあたっても、大きな役割を演じました。このことからも教育基本法が、しばしば誤解されるように、公共性を軽視した個人主義に立脚しているのではないことがはっきりするでしょう。
 南原はまた、「正義にもとづく平和」を希求しつつも、冷戦下で国民国家として日本が真に独立し、国際社会の一員として活躍するためには、自衛のための最低限の武器もやむをえないという考えを示しました。彼はこうした自らの立場を「イデアル・レアリスト(理想主義的現実主義)」と呼んでいたようです(加藤節『南原繁』岩波新書、一九九七年参照)。
    --山脇直司『公共哲学とは何か』ちくま新書、2004年、110-112頁。

-----

Resize1386


公共哲学とは何か (ちくま新書)
山脇 直司
筑摩書房
売り上げランキング: 77,613


南原繁―近代日本と知識人 (岩波新書)
加藤 節
岩波書店
売り上げランキング: 469,383

|

« 覚え書:「ルイス・ブニュエル [著]四方田犬彦 [評者]佐々木敦」、『朝日新聞』2013年08月11日(日)付。 | トップページ | 覚え書:「ドゥルーズの哲学原理 [著]國分功一郎 [評者]いとうせいこう」、『朝日新聞』2013年08月11日(日)付。 »

覚え書」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/451663/52928271

この記事へのトラックバック一覧です: 覚え書:公共哲学としての南原繁:

« 覚え書:「ルイス・ブニュエル [著]四方田犬彦 [評者]佐々木敦」、『朝日新聞』2013年08月11日(日)付。 | トップページ | 覚え書:「ドゥルーズの哲学原理 [著]國分功一郎 [評者]いとうせいこう」、『朝日新聞』2013年08月11日(日)付。 »