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覚え書:「今週の本棚:中村桂子・評 『医療大転換-日本のプライマリ・ケア革命』『医師は最善を尽くしているか』」、『毎日新聞』2013年09月08日(日)付。


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今週の本棚:中村桂子・評 『医療大転換-日本のプライマリ・ケア革命』『医師は最善を尽くしているか』
毎日新聞 2013年09月08日 東京朝刊


 ◆『医療大転換-日本のプライマリ・ケア革命』=葛西龍樹・著(ちくま新書・777円)

 ◆『医師は最善を尽くしているか』=A・ガワンデ著、原井宏明・訳(みすず書房・3360円)

 ◇医療の質を上げるには何が必要かを問う

 『医療大転換』。二〇〇ページほどの本書のどこを読んでもあたりまえのことばかりだ。誤解のないように大急ぎで言うなら、この「あたりまえ」の指摘こそ重要なのである。私のような医学・医療のしろうと、つまりそれに患者(やその家族)として関わる者が、そうあって欲しいと願っている姿がここにはある。なぜか多くの場合、専門家としろうとの間にはギャップがある。医療の専門家の描き出す未来像は、最先端の科学を生かし、最新の機器を備えて行うものとなる。もちろんそれが不要とは言わないが、日常大事なのは、健康診断でちょっと怪しいと言われた時に相談に乗り、適切な対応をとって安心させてくれる医師であり、医療だ。

 「身近にあって、何でも相談にのってくれる総合的な医療サービス」、つまりプライマリ・ケアとそれを担う専門医「家庭医」の重要性を指摘し続けてきた著者は、多くの例で日本がいかにこの面での後進国であり、その結果、医療・医師への不満・不信・不安が渦まいているかを示す。一九八五年、旧厚生省に懇談会が組織され、家庭医制度が生まれそうになったが、なぜか日本医師会が反対し実現しなかった。実は今「総合診療専門医」といういかめしい名前でまた議論されているが、これが本当の「家庭医」になるかどうか怪しそうだ。

 問題は、誰もがまず総合病院へ足を向けることと出来高払いとの二つから無駄な検査、投薬、患者のたらい回しなどの問題が出ていることであり、患者も何でも大きな病院へ行く習慣を反省しなければならない。本書で紹介されるプライマリ・ケアの先進国、英国やオランダの実例に学びたい。英国の家庭医は登録者一人当たり一年につき五五ポンド、住民二〇〇〇人の地域なら約一六〇〇万円の収入になるそうだ(経費込み)。無駄な投薬の必要はない。著者は二〇〇六年から福島県立医科大学に勤務しており、東日本大震災後、プライマリ・ケアに欠ける医療の弱点を痛感したという。震災対応の医療予算が、地域医療でなく先端研究に向けられたことに違和感を抱いた者として、現場の声の必要性を思う。

 医師という人間の重要性が浮かび上がったところで、『医師は最善を尽くしているか』に眼(め)を向けよう。病院勤務医の著者は、通常医師の仕事とされる診断・治療・説明の技術以前に、人間として責任を引き受けみごとに行動することが重要であるという興味深い指摘をする。常にリスクと責任を伴う医療には、勤勉さ、正しく行うこと、工夫の三つが不可欠と言うのである。勤勉さの一例は手洗いである。全員が正しく手を洗うことでどれだけ医療の質があがるか。これがなかなか難しく医師が菌をうつす危険性は常にあるのだ。正しく……の章では、患者(特に異性)の裸とどう向き合うか、適切な医師の給料など興味深いテーマと共に、最大の難問は医学の限界を知ることだという本音が語られる。工夫の章では、嚢胞(のうほう)性線維症(遺伝病)の人の生きる時間が病院によってどれだけ異なるかという具体例から、医師たちの工夫の大切さが示され、思わず引きこまれる。

 著者は、現場でのパフォーマンス向上の重要性を説き、そこに予算が出れば医療の質はあがるのにと言う。両著共、現場の医師が医療の質をあげる方法を示し、そこへの注目を求めている。見当違いなところに予算や人間を投入しないためにも、私たちも現場を知り、自らの考えをもつことが大事だ。
    --「今週の本棚:中村桂子・評 『医療大転換-日本のプライマリ・ケア革命』『医師は最善を尽くしているか』」、『毎日新聞』2013年09月08日(日)付。

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[http://mainichi.jp/feature/news/20130908ddm015070031000c.html:title]


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