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覚え書:「カッパ・ブックスの時代 [著]新海均 [評者]内澤旬子」、『朝日新聞』2013年09月22日(日)付。


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カッパ・ブックスの時代 [著]新海均
[評者]内澤旬子(文筆家・イラストレーター)  [掲載]2013年09月22日   [ジャンル]人文 


■熱い本作りの場、暗転の軌跡描く

 1970年代、小学生のときにはじめて手にした大人向けの本といえば、カッパ・ブックスだ。『頭の体操』『ウンコによる健康診断』など、居間に転がっていたのを夢中になって読んだ。子どもにも分かる文と構成で書かれていた。
 この「大衆向け教養路線の新書」が作られた背景には、知識人向けブランドとして既に確固とした地位を築いていた岩波新書への対抗心があったのだという。
 本書は敗戦の年に創業した光文社の軌跡を、54年に創刊したカッパ・ブックスを中心に据えて描くノンフィクション。
 高度経済成長期、本そのものが、良く売れた時代のなかでも、カッパ・ブックスはダントツの売り上げを誇っていた。子どもだった私でも知っているベストセラータイトルが沢山(たくさん)ある。
 前半はそんな黄金期。ベストセラー、ミリオンセラーと、それをたたき出した伝説の編集者たちが魅力的に描かれる。才能、個性、いやなにより絶対にいい本を作るという熱くて強い信念が漲(みなぎ)り、熱血漫画を読むような心地よさだ。
 けれども出版「社」というものは、本を作って売ればそれでよしというわけにはいかないようなのだ。後半の暗転ぶりが強烈だ。同じ業界にいる者として小耳に挟んでいた横領事件など噂(うわさ)の数々が、生々しい実名と数字入りで容赦なく書き進められる。
 カッパ・ブックスを作ったカリスマ社長神吉晴夫への反動が、激しい労働争議となり、優秀な人材が流出し、さらに時代の変化とともに社内のドル箱は、カッパ・ブックスから「JJ」など女性ファッション誌へ移行。
 ファッション誌出身の並河良が社長になり、凋落(ちょうらく)気味であったノンフィクションの部署に厳しい鉈(なた)を振るう。「週刊宝石」をつぶし、デザイン性の高い週刊誌や新書を創刊させる。週刊誌は失敗して20億の赤字となる一方、光文社新書は売り上げを伸ばし、カッパ・ブックス編集部は廃部となる。
 著者は最後のカッパ・ブックス編集部員で、2010年の大規模リストラ敢行時に退社している。
 一時代を築いたシリーズの寿命だったのだと思う。けれども著者からすれば、会社組織ならではのいざこざで、あれほど熱かった本作りの場がいつのまにか冷えきり、挽回(ばんかい)の機会が必要以上に奪われてしまったという悔しさが、大いに滲(にじ)む。リストラ後、光文社の経営は雑誌広告収入などにより好転したという。
 会社が最後に守るべきものは何か。社名か、従業員か。「わからない」と並河元社長はつぶやく。社が作ってきた「本」という製品は、守るべき対象には入らないのか。聞いてみたくなった。
    ◇
 河出ブックス・1575円/しんかい・ひとし 52年生まれ。75年、早稲田大学卒業後、光文社入社。カッパ・ブックス編集部に配属され、月刊「宝石」編集部を経て、99年から2005年の終刊までカッパ・ブックスの編集に携わる。著書に『深沢七郎外伝』。
    --「カッパ・ブックスの時代 [著]新海均 [評者]内澤旬子」、『朝日新聞』2013年09月22日(日)付。

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[http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2013092200003.html:title]


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