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覚え書:「松岡二十世とその時代 北海道、満洲、そしてシベリア 松岡 將 著」、『東京新聞』2013年09月22日(日)付。

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松岡二十世とその時代 北海道、満洲、そしてシベリア 松岡 將 著 

2013年9月22日


◆「農民のため」 貫いた生涯
[評者]脇地炯(けい)=評論家
 松岡二十世(はたよ)は昭和初頭、エリートの道を捨てて北海道の農民運動に投じた人である。小林多喜二『不在地主』で知られる磯野富良野農場と月形村の小作争議を指導、「共産党狩り」に連座して三年間下獄した。思想的彷徨(ほうこう)を経て旧満州国に渡り今度は農政全般に心を砕いたが、ソ連に抑留されシベリアで病没した。「農民のため」という使命感を貫いた数奇な生涯を、遺児が十年かけて追跡した大冊である。
 争議を担った日本農民組合入会に先立つ東京帝大時代、二十世は学内の「新人会」に属して労働者や農民と交流する一方、エンゲルスの『ドイツ農民戦争』を翻訳、社会主義への傾斜を深めていた。が、それだけでは使命感とその持続の理由は解けない。伊達支藩の書記だった生家の家風や、受洗していたキリスト教の倫理的影響はどうだったか。考察の欲しかったところだ。
 二十世らの「小作組合型」農民運動は、小作の地位に修正を加えた昭和十三年の農地調整法成立もあって衰えていく。日中戦争が泥沼化し思想弾圧が厳しくなるなか、「階級闘争のためでなく全国家のために尽くすべき」だと述べるに至る。だがその具体策こそ農村建設だという含みがあり、思考変換のなかに固有の倫理が透けて見える。
 ところで著者は『不在地主』中の檄文(げきぶん)は二十世が書いたビラそのままであり、『転形期の人々』の学生のモデルは二十世であると実証的に指摘している。文学史研究上の手柄であろう。
 十四年末、大連に職を得て日本を離れ、家族を呼び寄せる。満州国の政治団体「協和会」幹部に転じ、農村視察や喫緊の農業問題に関する論文執筆に全力を傾ける。異民族との「協和」実現には「三千万農民をうるほ」すことが必須だというのが持論だった。
 小作問題もソ連社会主義信仰も遠い歴史になった。二十世の生涯はその制約を負った時代的なものだった。が、社会的弱者に寄せた一途(いちず)な倫理感は今日なお、検討に値すると思われる。
(日本経済評論社・5040円)
 まつおか・すすむ 1935年生まれ。元農水省国際部長。
◆もう1冊 
 『尾崎秀実時評集-日中戦争期の東アジア』(平凡社東洋文庫)。戦時のアジア情勢を報告した時評集。「東亜協同体」の理念を問う。
    --「松岡二十世とその時代 北海道、満洲、そしてシベリア 松岡 將 著」、『東京新聞』2013年09月22日(日)付。

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[http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2013092202000181.html:title]


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