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覚え書:「<脳と文明>の暗号 M・チャンギージー 著 中山宥訳」、『東京新聞』2013年09月22日(日)付。


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【書評】

<脳と文明>の暗号 M・チャンギージー 著 中山宥訳

2013年9月22日


◆音楽の起源は足音のまね
[評者]金子務=科学史家
 音楽が魂を揺さぶり、人を踊らせるのはなぜだろう? この難問に、人工知能研究者の著者はこともなげに、音楽が自然をまねているせいだ、と説く。脳は野生のネコ、文化の側でこのネコをならす文字や言葉、音楽という仕掛けを進化させたのだ、と。脳の中のホムンクルス(小人)が踊り出すのか。
 この野心的な新説が、序章と終章をはさむ全四章で展開される。始めに脳ありき、である。脳がまず自然淘汰(とうた)で自然界に合わせて進化し、その複雑な自然物である脳の暗号に合わせて、文化が環境に相応(ふさわ)しいように文化淘汰で進化する。本書は聴覚系の言葉と音楽が主題だが、文字、絵画の視覚系については、同じ著者の『ひとの目、驚異の進化』(インターシフト)がある。なお著者は、耳の音はソリストで純粋、眼のアートより格上と見ている。
 実験と推測を繰り返す筆法には忍耐を要するが、説得力がある。自然界の基本音(ものがぶつかり、すべり、鳴るの三音素)をまねた発声器官が破裂音、摩擦音、共鳴音からなる言葉を生んだというのも面白い。音楽論はもっと上を行く。動作音でもっとも強力な足音をまねたのが音楽、というのだ。
 音楽とは、聞き手を前にした架空の歩行者の足音。なるほど、コツコツもドスンドスンも強弱高低、間合いもさまざま、女か男かだれでもわかる。クラシックの主旋律一万を調べて、音域の上下両端に留(とど)まろうとする音楽慣性の法則を立てたり、キーボード九十二曲を調べて、速いテンポの曲でメロディの上下動が大きいのは、歩行者の移動方向の変化と関係ある、とする。近づけば高く大きく、遠ざかれば低く弱く、というドップラー効果も指摘する。
 ステップといえばギリシャの足踊りを思い出した。左右交互に強弱をつける三拍子歩行が健康によい、と人にも勧めている。人類学者は人類が足から進化した、直立二足歩行こそ原点。脳科学者は足音こそ音楽文化の始まり。近いようで異なる二つの見解だ。
(講談社・2520円)
 Mark Changizi 米国の研究所「2AI Labs」の主任。
◆もう1冊 
 金井良太著『脳に刻まれたモラルの起源』(岩波科学ライブラリー)。モラルとは人類が進化的に獲得したものであることを明かす。
    --「<脳と文明>の暗号 M・チャンギージー 著 中山宥訳」、『東京新聞』2013年09月22日(日)付。

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[http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2013092202000180.html:title]


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