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書評:乾彰夫編『高卒5年 どう生き、これからどう生きるのか 若者たちが今〈大人になる〉とは』大月書店、2013年。


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 若者の成長にとって試練は重要だ、といわれることは昔からしばしばある、だがこれらを見れば、若者の成長にとって必要なのは試練一般ではなく、それがきちんと成長や自信の獲得に結びつく、そういう試練である。近年の状況を見ると、一部の大人たちの言説とは逆に、若者にとっての試練はむしろかつてより厳しさを増している。不安定な雇用が広がる中で、そういう状況を続ける者が増えたばかりでなく、高校・専門学校・大学とも長期にわたる就職活動は、若者たちにとって大きな試練となっている。そればかりではない。「七五三」言説とは裏腹に、ほとんどこの間実質的な上昇がなかった新卒三年間の離職率は、近年むしろ急速に低下しているが、その裏で労災認定に占める精神疾患件数の増加や、厚生労働省「患者調査」に見られる鬱などの受診者数のとくに若年層での大きな増加など、試練が成長に結びつかない病理が広がっている(乾二〇一二)。
 このような状況を見れば、今若者たちにとって必要なことは、試練そのものをさらに課すことではなく、試練を成長に結びつけられるような手立てである。そのためには、若者たちのがんばりや成長をきちんと評価して承認する、そういう場の形成が、学校でも職場でも地域でも、求められているのではないか。
    --乾彰夫「若者たちの七年の成長と自信」、乾彰夫編『高卒5年 どう生き、これからどう生きるのか 若者たちが今〈大人になる〉とは』大月書店、2013年357頁。

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乾彰夫編『高卒5年 どう生き、これからどう生きるのか 若者たちが今〈大人になる〉とは』大月書店、読了。本書は高校3年の秋から卒業5年目まで7年におよぶ追跡調査(首都大乾ゼミ院生)をもとに懸命に生きる若者たちの軌跡と意味を描く。継続的調査は少ないから本調査とその分析は貴重な記録。

不安定な社会・雇用状況の中、卒業前後から社会に出ての数年、若者たちはどんな課題に直面し、どう切り抜けようとするのか。本書は、その実像をつまびらかにする。「働く意欲」がない訳ではないし、複雑な状況下で必死に生きている。

キャリア教育の実像から、若者と家族の関係(そして若者が形成する家族)、性的規範形成、地域コミュニティと大学生活の構造、イニシエーションとして「若者たちが今〈大人になる〉とは」を扱う本書の話題は幅広いがどれも秀逸だ

メディアを始め「大人」たちは若者叩きに明け暮れたが、「叩かれる」所以はあるのだろうか。努力や根性が不足している訳ではない。前時代より複雑化する構造へ目を向け、未来を展望・準備する必要があるのではないだろうか。

苦行的通過儀礼の必要性はしばしば言われる。しかし必要なことは(大人たちがスルーしてきた)「試練そのものをさらに課すことではなく、試練を成長に結びつけられるような手立てである」。

本書はキャリア教育担当者に紐解いてもらいたい。エセ自己啓発よろしい「なりたい自分や職業」ばかりやっても、みんなそこに行かないし、何の役にも立ってないし、そもそも、「本学の就職率はw」でおしまいで、卒業後は放置でしょう。無責任このうえない。

所収杉田真衣「若年女性と性的サービス労働」は、ほんと驚愕だった。調査対象のひとつ(難易度の低い高校)出身者の7割が飲食接待から肉体的接触を伴う風俗産業経験があった。

したり顔で「割がいい」とか、「頭悪いから当然でしょう」とかいっているオッサンがいたらぶんなぐりそうになったわ。風俗だけではないけど、ほんと、個人の資質ではもはやどうしようもないところにまで、社会は選択肢の多様性を割愛し、生きてよい人間とそうでない人間を分断しようとしている。

(私は嫌いだけど)気合いと根性で乗り切れる(=ヤンキー主義@斉藤環)時代はかつては存在し、それが主としてガチヤンキーとは対極に位置する社会的上位カーストの連中がデキレース的に利用し、その意義を吹聴した。しかし、もうそろそろ気合いと根性では乗り切ることができない事実とそういう時代であることを認識し直さなければはじまらないのじゃないのかねえ。

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