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覚え書:「今週の本棚:荒川洋治・評 『戦後詩』=寺山修司・著」、『毎日新聞』2013年09月29日(日)付。

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今週の本棚:荒川洋治・評 『戦後詩』=寺山修司・著
毎日新聞 2013年09月29日 東京朝刊


 (講談社文芸文庫・1365円)

 ◇人生全体の思考の場にかかわる詩論

 詩人寺山修司(一九三五-一九八三)が一九六五年、二九歳のときに書いた批評だ。ほぼ半世紀後のいまも、これほど魅力的な詩論は日本に現れていない。「東京ブルース」(歌・西田佐知子)「ああ上野駅」(歌・井沢八郎)を語るだけではない。戦後詩人の「ベストセブン」に作詞家星野哲郎を挙げるなど、自在。ことばと社会をつないで、独自の批評を展開する。

 たとえば「キャッチボール」の話。「ボールが互いのグローブの中でバシッと音を立てる」、あの瞬間。

 「どんな素晴らしい会話でも、これほど凝縮したかたい手ごたえを味わうことはできなかったであろう」「手をはなれたボールが夕焼の空に弧をえがき、二人の不安な視線のなかをとんでゆくのを見るのは、実に人間的な伝達の比喩である」。この「実感」の復権が、戦後二〇年の日本人を支えたと。

 歴史は「帰る」ことだが、地理は「行く」ことを教える。ひとりからひとりへとひびく。その手ごたえが大切だと。「実感」論は本題の戦後詩論となると、さらに冴(さ)えわたる。

 たとえば、茨木のり子。「わたしが一番きれいだったとき」などの詩は、天声人語、教科書でひろまった。倫理的で、きりっとした詩は、人びとによろこばれるが、寺山修司はいう。「あまりにも社会的に有効すぎて、かえって自らのアリバイを失(な)くしてしまっているのではないか」。吉野弘の詩「たそがれ」は、「他人の時間を耕す者」が、夜になり、自分に帰るひとときをうたうもの。これにも疑問をもつ。

 <「公生活」から解放されるという意味なのであろう。だが、「公生活」がなぜ他人の時間を耕すことなのか? それが私にはわかりにくい問題である。>

 人は「全体的なパーソナリティ」で生きるべき。<帰ろうとすれば「いつでも自分に帰れる」から詩人なのであって、それができないような「他人の時間を耕す生活」なら放棄してしまえばいいではないか。>

 会社では、仮の姿。夜のわたしはすごいぞお、という人はいまも多い。人生全体の思考の場にかかわる、重要な指摘だ。また「おやすみ」ばかりの詩の世界に、はじめて「おはよう」の詩をもたらした谷川俊太郎。でもその後の詩はどうか。「ことばが面白ければ面白いほど、私はなぜだか楽しめなくなってくる」。戦後詩の起点「荒地」の詩人田村隆一、黒田三郎らにも手きびしい。「自身の破滅を通してしか世界を語れなくなってしまった」。いっぽう「私は、最初から難解さを目的とした詩は好きである」と、読者を二人(澁澤龍〓、窪田般弥)に限定した(?)加藤郁乎の詩にもふれる。

 こうしてみると、戦後の詩は実にシンプルに、すなおに、鮮やかに人々の意識を表現したのだ。社会を知りたいときは、詩なのだ。ぼくも詩を読んでみようかな、と思った。

 でもそれは、寺山修司の批評に魅せられたためである。田村隆一、茨木のり子、吉野弘らの詩の魅力も含め、寺山修司はなにもかも知ったうえで書いているのだ。批判された人たちも、キャッチボールをするときのように、そのことばを受けとめたはずだ。寺山修司の批評には天才の鋭さと、すがすがしさがある。きらりとした愛情がある。

 本書は「詩集」としても堪能できる。現代詩の黄金期を告げた吉岡実の長編詩「僧侶」をはじめ、合わせて六四編の詩や詞(全編または一部)が引用されているからだ。「必らず読んで欲しい詩」と「その他」に分けている。「その他」のほうも読みたくなる。
    --「今週の本棚:荒川洋治・評 『戦後詩』=寺山修司・著」、『毎日新聞』2013年09月29日(日)付。

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[http://mainichi.jp/feature/news/20130929ddm015070046000c.html:title]


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