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覚え書:「書評:夢、ゆきかひて フィリップ・フォレスト 著」、『東京新聞』2013年09月29日(日)付。


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夢、ゆきかひて フィリップ・フォレスト 著 

2013年9月29日


◆日本文学の普遍性を語る
[評者]小倉孝誠=慶応義塾大教授
 日本の文化や歴史について語る外国人は、少なくない。フランスの作家に関して言えば、クローデル、バルト、ユルスナールらが興味深い日本論を著(あら)わした。著者はそうした先人たちの仕事を評価し、時にはそれに反駁(はんばく)しながら、日本文学について語る。
 四歳の娘をガンで失うという衝撃的な経験が、作家としての出発点になった著者が最初に発見した日本作家は、大江健三郎である。極限的で、ほとんど理解不可能な経験をひとはいかにして作品化できるのか。語りえない体験は一種の虚構化と寓話(ぐうわ)をつうじてしか、物語ることができない。フォレストはそれをオートフィクション(自伝的虚構)と名づける。そのヒントをあたえてくれた大江にたいする、著者の称賛と敬意はとりわけ大きい。
 本書にはさらに、漱石や中原中也や津島佑子を論じた文章が収められている。日本語を解さず、仏訳や英訳で読んでいるフォレストは、日本文学の専門家ではない。無知ゆえの誤解もあるだろう、と認める。しかし同時に、「取り違え」をはらんだ個人的な解釈こそが、作品の真実と美に至る道でもあると著者は言う。
 第四部に収められている畠山直哉の写真集『気仙川』をめぐる文章は、深い感動を誘う。この写真集には、二〇一一年の大震災で被災した陸前高田の、「あの時」の前と後の光景が映し出されている。あの瞬間を捉えられる映像はない。表象された現実が、その中心に絶えず闇のようなものを含んでいるからだ。だからこそ、前と後の強烈な落差が読者をうちのめす。
 著者は日本文学の特殊性に注目するのではなく、それをつねに世界文学の地平に向けて解放する。価値があるのは「日本的な魂」ではなく、普遍性を志向する作家たちの言葉なのだ。こうして著者は愛する日本の作家について謙虚に、しかし断固たる口調で語る。読者の知性と感性に快くうったえかけてくる書物である。
(澤田直ほか訳、白水社 ・ 2520円)
 Philippe Forest 1962年生まれ。フランスの作家・批評家。
◆もう1冊 
 ロラン・バルト著『表徴の帝国』(宗左近訳、ちくま学芸文庫)。意味の希薄な記号が文物を生み出す日本文化の特色を明快に論じる。
    --「書評:夢、ゆきかひて フィリップ・フォレスト 著」、『東京新聞』2013年09月29日(日)付。

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