« 覚え書:「猿まわし 被差別の民俗学 [著]筒井功 [評者]田中優子」、『朝日新聞』2013年10月06日(日)付。 | トップページ | 書評:ロバート・D・パットナム編著(猪口孝訳)『流動化する民主主義 先進8カ国におけるソーシャル・キャピタル』ミネルヴァ書房、2013年。 »

覚え書:「「自分の子どもが殺されても同じことが言えるのか」と叫ぶ人に訊きたい―正義という共同幻想がもたらす本当の危機 [著]森達也 [評者]佐々木敦」、『朝日新聞』2013年10月06日(日)付。


201


-----

「自分の子どもが殺されても同じことが言えるのか」と叫ぶ人に訊きたい―正義という共同幻想がもたらす本当の危機 [著]森達也
[評者]佐々木敦(批評家・早稲田大学教授)  [掲載]2013年10月06日   [ジャンル]ノンフィクション・評伝 

■当事者の代弁に隠れている欺瞞

 とても長い、しかも問いかけの形を採った題名。その言葉の響きは挑発的でさえある。では、いったい何を問おうというのか。BS放送の対談番組で死刑廃止論を展開した際に(森氏の死刑論は『死刑』に詳しい)一部の視聴者から寄せられた批判の多くが、「死刑制度がある理由は被害者遺族のため」という論調であったことに対して、著者はこう問う。「もしも遺族がまったくいない天涯孤独な人が殺されたとき、その犯人が受ける罰は、軽くなってよいのですか」。詭弁(きべん)のように聞こえるかもしれないが、続けて読んでいくと、著者がこだわっているのが、いわゆる「当事者」性という問題であることがわかってくる。「被害者遺族の思いを想像することは大切だ。でももっと大切なことは、自分の想像など遺族の思いには絶対に及ばないと気づくことだ」と著者は続ける。もしも著者の身内が誰かに殺されたら、彼は犯人を憎み、死刑にならないなら自らの手で殺したいと思うかもしれない。それは当然だ。なぜならそのとき自分は「当事者」になっているのだから、と率直な感情を記した上で、著者はしかし、こう続ける。「でも今は当事者ではない」
 2007年に開始され、現在も連載の続いているコラムを加筆修正し、順序も入れ替えて一冊にまとめたものである。死刑制度、領土問題、戦争責任、レイシズム、9・11以後、原発事故、等々、扱われている事象は多岐にわたっているが、著者の姿勢は一貫している。副題に「正義という共同幻想」という言葉があるが、これを裏返すなら、著者の目には「共同幻想としての正義」と映る空気の蔓延(まんえん)に(まさに「空気が読めない」と誹(そし)られることを覚悟で)ストップをかけ、もう少しだけ各々(おのおの)が自分の頭で考えてみてはどうかと提言すること。死刑制度に限らず、幾つかの問題に関して著者はかなり明確な意見を持っているが、それと同時に常に悩んでもいる、悩み続けている。正義とは正答の別名であるとするなら、一足飛びに答えを見いだそうとせず、その場に踏みとどまって考えてみることの意味と価値を、この本は訴えている。
 当事者ではない者が当事者を代弁してみせる行為の内には、まぎれもない善意と同時に、一種の無自覚な欺瞞(ぎまん)が隠れていることがある。私たちは、自分(たち)とは絶対的に無関係な他人、文字通りの「他者」たちの悲嘆や絶望に共感する術は、実のところは、ない。だがそれでも、だから最初から諦めるとか、どうでもいいということではなく、それでも、それだからこそ、他者を思いやる能力が必要なのではないか。その能力を「想像力」と私は呼びたい。森達也は貴重な想像力の持ち主だと思う。
    ◇
 ダイヤモンド社・1680円/もり・たつや 56年生まれ。映画監督、作家。映画作品に、オウム真理教を取り上げたドキュメンタリー「A」「A2」など。著書の『A3』で講談社ノンフィクション賞。
    --「「自分の子どもが殺されても同じことが言えるのか」と叫ぶ人に訊きたい―正義という共同幻想がもたらす本当の危機 [著]森達也 [評者]佐々木敦」、『朝日新聞』2013年10月06日(日)付。

-----


[http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2013100600003.html:title]


Resize1595

|

« 覚え書:「猿まわし 被差別の民俗学 [著]筒井功 [評者]田中優子」、『朝日新聞』2013年10月06日(日)付。 | トップページ | 書評:ロバート・D・パットナム編著(猪口孝訳)『流動化する民主主義 先進8カ国におけるソーシャル・キャピタル』ミネルヴァ書房、2013年。 »

覚え書」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/451663/53591712

この記事へのトラックバック一覧です: 覚え書:「「自分の子どもが殺されても同じことが言えるのか」と叫ぶ人に訊きたい―正義という共同幻想がもたらす本当の危機 [著]森達也 [評者]佐々木敦」、『朝日新聞』2013年10月06日(日)付。:

« 覚え書:「猿まわし 被差別の民俗学 [著]筒井功 [評者]田中優子」、『朝日新聞』2013年10月06日(日)付。 | トップページ | 書評:ロバート・D・パットナム編著(猪口孝訳)『流動化する民主主義 先進8カ国におけるソーシャル・キャピタル』ミネルヴァ書房、2013年。 »