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覚え書:「書評:どっこい大田の工匠たち 町工場の最前線 小関 智弘 著」、『東京新聞』2013年10月13日(日)付。

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どっこい大田の工匠たち 町工場の最前線 小関 智弘 著

2013年10月13日

◆重い口が語る職人の技術
[評者]平川克美=文筆家
 ものづくりの盛んな東京都大田区で、従業員三人以下の現場に光をあてる表彰制度がある。「大田の工匠100人」がそれだ。その審査員のひとりで、町工場で旋盤工として働きながら、優れた小説やエッセイを発表し続けてきた小関智弘が十七人の凄腕(すごうで)の職人たちを尋ねて、聞き書きしたルポである。
 当今流行の、匠(たくみ)紹介とは異質の、濃厚な空気が伝わってくるのは、小関が町工場の現場を肌で知っているからだろう。路地裏の職人たちは寡黙であり、容易に心を開かない。言うに言えない苦心の堆積の結晶がかれらの製品であり、言葉でもある。
 その言葉の意味を嗅ぎ分けるには、何が必要か。かつて「春は鉄までが匂った」と記した小関は、ここでも職人たちのつくったものが発散する匂いを嗅ぎ、手で触れ、そしてかれらが語り始めるまで待つ。そんなひそやかで、忍耐力のある文体に引き込まれる。
 いくつもの忘れがたいエピソードが重ねられる。たとえば、南馬込の鍛冶職人・小林政明さんが創業者であった病床の父・定雄さんをこう語る。「でも、親父(おやじ)の“まあまあ”は、良くできたなんです。悪けりゃ糞味噌(くそみそ)ですからね」。これを聞いて小関が思い浮かべるのは「あるじは名高き いっこく者よ 早起き早寝の 病知らず」という唱歌である。ここを読んでいて、大田区の型職人の息子である評者は、おふくろがよく「おとうさんはいっこくだから」と嘆いていたのを思い出した。
 職人たちに共通しているのは、長い研鑽(けんさん)と下積みの日々であり、よそではできないものづくりをやり抜くことで独自の技術を磨き上げたという矜持(きょうじ)。「仕事の根本だけは間違っても曲げ」ないのだ。かつて八千以上あった大田区の町工場は、いまは半減している。それでも、どっこい大田の工匠は生きている。かれらが日々つくりあげ、残してくれているものは、単なるモノではない。学ぶべき「語るに足る人生」がそこにある。
(現代書館・2100円)
 こせき・ともひろ 1933年生まれ。作家。著書『鉄の花』『職人学』など。
◆もう1冊
 Beretta P-08著『東京町工場散歩』(中経出版)。ネジから衛星搭載の観測機器まで多彩な製品を作る下町の工場を写真と文で紹介。
    --「書評:どっこい大田の工匠たち 町工場の最前線 小関 智弘 著」、『東京新聞』2013年10月13日(日)付。

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[http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2013101302000161.html:title]


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