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覚え書:「書評:物語 朝鮮王朝の滅亡 金 重明 著」、『東京新聞』2013年10月20日(日)付。


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物語 朝鮮王朝の滅亡 金 重明 著 

2013年10月20日


◆日本関与を鋭角的に記す
[評者]小倉紀蔵=京都大教授
 朝鮮王朝の滅びに日本が深く関わっていること。このことはもちろん、現在の日韓関係にも深く影を落としている。韓国の朴槿恵(パククネ)大統領が日本に「正しい歴史認識」を執拗(しつよう)に求めており、妥協しないのはなぜか。彼女自身の道徳的潔癖さももちろんあるが、政治的には、国内の左派からの攻撃を避けるためだ。なぜ左派が攻撃するかというと、朴槿恵の父親は朴正煕(パクチョンヒ)だからだ。朴正煕は日本の陸軍士官学校を出て、満洲国で働いた。これが左派から見れば、親日行為に見える。そこを衝(つ)かれると朴槿恵にとっては致命的なのだ。
 また朴正煕は韓国の近代化を成し遂げた。その際に、停滞と暗黒の儒教的朝鮮王朝を克服すべきだ、と語った。だから朝鮮王朝否定と近代化と親日は、朴正煕において隠微に結合しているのである。さらに、韓国の左派は基本的に朝鮮王朝風の道徳主義的な儒教メンタリティを持っているので、日本的な実用主義の朴正煕が嫌いなのだ。
 さて本書は、朝鮮王朝が転落していく過程を、実に読みやすく綴(つづ)った好著だ。類書にありがちな、「清く正しい朝鮮が、邪悪で強欲な日本にやられた」という安易な二分法には陥っていない。そこに好感が持てる。だが、とはいっても日本が勝手に朝鮮に踏み込んでいって支配や残虐行為(特に日清戦争時)を行ったのは事実である。そこのところは、抑制された筆致できちんと鋭角的に描かれている。十八世紀の「実学」思想という光芒(こうぼう)から二十世紀の王朝落日にいたるまでが、物語のようにして一気に読める。著者は小説家だが、本書はフィクションではない。
 特にお薦めなのは、朝鮮が日本の保護国になったことを嘆いた著名な論説「是日也放声大哭」や「朝鮮革命宣言」などが日本語訳されていることである。歴史の亀裂に落とし込まれた朝鮮の人びとの劇(はげ)しい肉声を聞こう。日本人も韓国人も、まずはこの叫びの意味を充分に感じ取った上で、自分の歴史観を打ち立てるべきではないのか。
(岩波新書 ・ 861円)
 キム・チュンミョン 1956年生まれ。小説家。著書『北天の巨星』など。
◆もう1冊 
 趙景達(チョキョンダル)著『近代朝鮮と日本』(岩波新書)。朝鮮と日本双方の史料を駆使して描く近代日朝関係史。一九一〇年の韓国併合までを扱う。
    --「書評:物語 朝鮮王朝の滅亡 金 重明 著」、『東京新聞』2013年10月20日(日)付。

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[http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2013102002000171.html:title]


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