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書評:前田朗『増補新版 ヘイト・クライム 憎悪犯罪が日本を壊す』三一書房、2013年。


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 歴史を振り返れば、スターリンの大粛正、日本軍の三光政策・無人区政策、東京大空襲、ヒロシマ・ナガサキ、朝鮮戦争における国連軍の犯罪、ベトナム戦争・北爆。枯葉剤作戦、カンボジアのポルポト派による大虐殺、旧ユーゴスラヴィアの「民族浄化」、ルワンダのツチ虐殺、東ティモール独立をめぐる内戦による虐殺、スーダンのダルフール・ジェノサイド、アフガニスタンとイラクにおける膨大な民間人虐殺、そしてイスラエルによるパレスチナ・ジェノサイド--コリアン・ジェノサイドは、これらと同じ文脈で語られなければならない。
 歴史のはざまで数々の悲劇が起きてきた。この悲劇は自然災害ではない。人為的な犯罪は防ぐことができる。ジェノサイドをいかにして防ぐのか。そのための議論はいまだ十分になされていない。コリアン・ジェノサイドにきっちり決着をつけて、二度と起きないようにすることが課題である。八七年も昔の物語(関東大震災下における朝鮮人大虐殺のこと……引用者註)ではなく、今なお私たちが向き合わなければならない未決の課題なのである。
    --前田朗『増補新版 ヘイト・クライム 憎悪犯罪が日本を壊す』三一書房、2013年、86頁。

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前田朗『増補新版 ヘイト・クライム 憎悪犯罪が日本を壊す』三一書房、読了。日本における朝鮮人差別が生む「ヘイト・クライム」(人種・民族・国民的な差異をターゲットにして行われる差別行為とそうした差別の煽動)を取り上げ、政府と社会が繰り返してきた差別の歴史と現在を見つめ、未来を展望する一冊。

著者は表現の自由を守るためにもヘイト・クライムを処罰すべきと主張する。国際人権法の歩みを踏まえ、人種差別禁止法の必要性を視野に入れるが、非常に説得力に富む。人種差別を正当化して他者の人格権を否定するヘイト・スピーチは言論ではなく紛れもない犯罪である。表現の自由は人格権を否定するものであってはならない。

初版は2010年。本書は憎悪犯罪が席巻する昨今の事態に対応して増補新版として加筆された。関東大震災下における朝鮮人虐殺と現在の問題は通底していることを本書は丁寧に描き出す。ナチやルワンダの悲劇は対岸の火事ではない。「憎悪犯罪は社会を壊す」。

政府は拷問等禁止条約に基づいて設置された拷問禁止委員会からの勧告に「従う必要はない」と閣議決定した。暴言は過激デモだけでなく政治家、そして日本政府の問題でもある。どんな差別も罵声も自由だと勘違いするのは政府の姿勢にも原因がある。

。朝鮮人差別とヘイト・クライムの現在を冒頭で紹介、歴史的なコリアン・ジェノサイドの系譜を訪ね、国際人権法の歩み~人種差別禁止法の制定へ向けた人種差別との闘いを展望する構成。「責任としての抵抗」は如何にあるべきか。類書の少ない中、本書は基本書の1つになろう。


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 彼らは、朝鮮や韓国や在日がなくなったら、間違いなく生きる意味を失うだろう。DV夫が、妻が亡くなった途端に自殺したりするのと同じだ。

 「みんな」とか「世間」とかが一番の社会では、人は自らの意思を持つことができない。いや、許されない。だから、意志薄弱な輩の依存する最後の砦が、敵としての在日、そう、私なのだ。
 彼等は、終生私にストーカー行為を続けるのだろう。そんな彼らを取締まる警察はこの国には存在しない。しかし、彼らの人生には、光もまたありはしないのだ。
    --辛淑玉「『増補新版ヘイト・クライム』の刊行に寄せて 『日本人』というストーカー」、前田朗『増補新版 ヘイト・クライム 憎悪犯罪が日本を壊す』三一書房、2013年、186頁。

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