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書評:有田芳生『ヘイトスピーチとたたかう! 日本版排外主義批判』岩波書店、2013年。


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 税金を納めないとか、医療や水道が無料とか、いちいち反論する必要もないでしょう。彼らの言う「特権」など、現実には存在しません。ありもしないものを「ある」と言い張る人と、ネットでその言い分を読んだ途端、なんの検証もせずに「真実を知った」と鵜呑みにする人たちがいます。この二種類によって、在特会は成り立っているのです。
 彼らの主張は、根拠もなければ、もちろん思想もなく、一貫性もありません。新大久保で差別主義、排外主義のデモを行い「韓国人を殺せ」「日韓国交断絶!」と叫んだ翌日、拉致問題解決を訴えるデモを同じ人間たちがやるわけです。拉致問題を解決するためには、むしろ韓国政府と連携し、情報を共有する努力が欠かせないはずです。この問題の常識です。しかしそんな考えは、在特会には思いもつかないようです。一時が万事。これが在特会の本質なのです。
 そもそも、かりに右のような「在日特権」なるものがあって、それをなくせと言いたいのなら、日本政府に向かって主張すべきことです。新大久保や鶴橋のコリアンタウンでデモをしても、何の解決にもなりません。日韓断交を訴えたいのなら、官邸や外務省、韓国大使館に行くべきです。これもまた、コリアンタウンで喚いてもまったく意味のない行為です。
 これが在特会グループの素顔です。彼らは社会正義を錦の御旗のように掲げていますが、ゆがんだ感情を吐き散らしているにすぎません、。矛先をどこへ向けるのかを見ただけで、真実の姿が透けてしまいます。
 在特会にとっては、攻撃相手も言葉も単なる道具にすぎません。自分たちの感情の発散の場として弱者を対象に選び、その方法として彼らなりの主義主張、「正義」や「大義」を振りかざしたいだけです。実際には、欲求不満のはけ口を探しているだけでしょう。だから最もターゲットにしやすい在日朝鮮・韓国人を狙い、傷つけるのです。
 自分たちは社会から虐げられているという被害者意識と、自分たちが享受すべき権利を奪ったのは「在日」だ、という妄想に突き動かされているのです。彼らは確信犯的に八つ当たりしているにすぎません。
    --有田芳生『ヘイトスピーチとたたかう! 日本版排外主義批判』岩波書店、2013年、32-33頁。

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有田芳生『ヘイトスピーチとたたかう! 日本版排外主義批判』岩波書店、読了。「殺せ」「出ていけ」--在日コリアンに浴びせられる暴力の数々。本書は在特会を中心とするヘイトスピーチ(差別・憎悪の扇動)を批判する現在進行形の戦慄すべき報告である。

日本版排外主義の系譜と現在を概観し、差別に対抗する最前線を報告する構成だ。表現の自由と法規制の問題やカウンターの現在(巻末座談、安田浩一さん、師岡康子さん)にも言及する。「日本には差別はありません」と思う人に手にとって欲しい。

在特会が詭弁する所謂「在日特権」なるもののいかがわしさについても、担当省庁とのやりとりからその欺瞞を明らかにすると同時に、心性としての「悪の陳腐さ」をも浮かび上がらせるから、安田浩一『ネットと愛国』(講談社)のその後を追跡する試みといってもよい。

筆者自身、この問題に関わるまで「こうした言葉や実態について無知でした。人種差別撤廃条約というものがあって、世界にはこの条約に基づく国内法をもつ国が多い」が、和を重んじる日本には差別は存在しないとスルーする。

どう立ち上がるのか。

「ファシズムとは、いかなる精髄もなく、単独の本質さえありません。ファシズムは〈ファジー〉な全体主義」(あとがきより。エーコ『永遠のファシズム』)。だとすれば特定勢力に対する単なる「反対」とイコールではない。永続する自己認識の闘いである。


さてと、あとは蛇足。

しかし、岩波書店、やるなあ!

有田さんに特定の政治的立場があることは前提として承知するが、その闘う相手が、安倍政権と共鳴しながら、遠心力で力をましながら、よからぬ方向に押し流していこうとするのが現在だから、こうした俊敏な切り返しとしての理知的な批判は大事だと思う。

「ひとつづつ目標をもって、人種差別撤廃条約の勧告に基づく日本政府の対応を実現させるまで、前に進むしかありません」。いまだに、「通名は特権」と居直り強盗を決め込む、竹田恒泰大先生にも、有田芳生『ヘイトスピーチとたたかう!』(岩波書店)は手にとって欲しいなあ。

斜めから目線の知識人風の人間って、岩波書店に対する怨念みたいなのもあって、まさに「岩波文化人」という言葉があるようにあてこすりをするけれども、ほんと、オール翼賛体制で言論が収斂するなかで、今回の有田本の発刊は、まさ「文化の配達人」を任じた岩波書店の侠気だなと思います。

編集者すごいわ。

[http://www.iwanami.co.jp/moreinfo/0247160/top.html:title]


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