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書評:國分功一郎『来るべき民主主義 小平市都道328号線と近代政治哲学の課題』幻冬舎新書、2013年。

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國分功一郎『来るべき民主主義』幻冬舎、読了。本書は「現在の民主主義を見直し、これからの新しい民主主義について考える」試み。副題の通り(「小平市都道328号線と近代政治哲学の課題」)、小平市都道328号線の是非を巡る住民運動に筆者が携わるなかで、近代政治哲学の流れを踏まえ、現在の問題を指摘する。

民主主義のアリーナは選挙だけなのか? 実は行政が大きな力をもつ。

近代の政治理論は主権を立法権と定義する。立法府こそ全てを決定する最終の決定機関という認識だが、実際に統治に関わる殆どの事柄は行政が決めている。そして行政権に全く関わることができないのが現実だ。都道328号線はその消息を明らかにする。

住民投票でNOと言っても、一旦決めたことを覆すのは難しい。行政が全部決めるのに民主主義と呼ばれるのが私たちの社会である。だとすれば、民主主義とそれへのアクセスの認識を一新する必要があるのではないか。著者は哲学者の責任として未来を展望する。

19世紀以来の革命理論は根本から全て変えれば解決すると考えたが、それは夢想だろう。著者はドゥルーズの議論(「制度が多いほど、人は自由になる)と「民主主義を来らしめねばならない」というデリダの発想から、新しい社会を構想する。学生に読んで欲しい。

ちなみに自分自身も小平市に住んでいるので、この問題には割とアンテナを張っていて、住民投票にも投票した(投票率の低さという問題もあるけれども)。しかし、人口減による自動車減少化社会のなかで新しい道路を作ることのこの問題は、単なるイエスorノーという局面の問題ではないですねえ。

不断に関わっていくことがなぜ大切なのか。それと同時に柔軟な発想でアクションしていくことに関して、政治思想史の文脈から「今現在の事柄」として考える、哲学者の思索と実践の往復が、國分功一郎さんの『来るべき民主主義』。どの著作を読んでもそうだけど、筆者の誠実さが光りますね。

誰とでも話しあっていくことで見えてくることはあると思う。何も向き合うまえから、悪魔化して退けることこそ、20世紀に猛威を振るった変革思想の劣悪さ。その意味で、この本は、公務員を悪魔化するひととともに、公務員のひとにも読んでもらいたいなあ。


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行政が全部決めるのに民主主義と呼ばれる社会
 ここで主権が巨大な問題に直面することになる。主権が立法権として定義されている以上、主権者たる人民が立法府に関われれば、それで「人民主権」の実現である。主権者たる人民は、立法されたことを執行しているに過ぎない行政機関には関わる必要はない。すなわち……「確かに主権者たる人民の意思が充分に立法府に届いているかというとそれは心許ないし、だから選挙制度の改革なども必要だろうが、しかし、立法府の構成員はやはり人民によって選ばれているのだから、不十分でこそあれ、これは立派な人民主権だ」というわけである。
 私たちは、立法権に対する主権者の関わりが不十分であることはよく知っている。選挙制度や議会制度に問題があることも知っている。そして、私たちはその不十分を何とかしようとしている。学者やジャーナリストも頑張っている。これは確かに重要な論点である。だが、その問題にかかずらうことによって、私たちはある現実を見失っている。それは、実際の決定は立法府ではなくて、行政府で下されているという現実。そして、それにもかかわらず、立法権として定義された主権概念のために、行政機関がいつまでも「自分は執行機関に過ぎない」と言い募ることができるようになっているという現実である。
 役所や官僚に対する批判というのはよく耳にする。だから「行政が全部決めてるなんて、そんなことは分かっている」という人がいるかもしれない。しかしそういう人はよく考えていただきたい。なぜそういった批判がこれだけ世の中に広まっているのに、この社会は「民主主義」と呼ばれ続けているのか、を。問題は、役所や官僚が政治的決定を下しているという現実が十分知られているにもかかわらず、この社会が民主主義と呼ばれ続けているのはなぜか、ということなのだ。
    --國分功一郎『来るべき民主主義 小平市都道328号線と近代政治哲学の課題』幻冬舎新書、2013年、133ー134頁。

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