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覚え書:「スーパーマン―真実と正義、そして星条旗と共に生きた75年 [著]ラリー・タイ [評者]渡辺靖」、『朝日新聞』2013年10月27日(日)付。


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スーパーマン―真実と正義、そして星条旗と共に生きた75年 [著]ラリー・タイ
[評者]渡辺靖(慶応大学教授・文化人類学)  [掲載]2013年10月27日   [ジャンル]文芸 


■時代とともに変身、壮大な英雄の秘史

 不屈のアメリカン・ヒーロー、スーパーマン。ミッキーマウスと並ぶ米大衆文化の肖像が誕生したのは1938年。御年めでたく75歳を迎えた。
 原作者のシーゲルとシャスターはともに東欧出身の貧しいユダヤ系移民。勉強も女の子も苦手で、いつも不良の餌食になっては、空想の世界に逃避していた。
 シーゲルが18歳のとき、父親が強盗に殺害される。守護者を失ったシーゲルは自警団的正義に目覚め、「超人」の原型を生み出す。視力障害のある相棒シャスターが懸命にそれにイラストを付けた。
 200人以上の関係者に取材、未完の回想録から裁判記録まで渉猟しながら、著者は壮大なスーパーマン秘史を探り描く。
 「真実と正義と星条旗」というお馴染(なじ)みの標語はユダヤ教の口伝律法「ミシュナー」に酷似するという。惑星クリプトンの唯一の生き残りとして赤子のスーパーマンが米国に逃げてくる設定はホロコーストと重なる。
 ヒトラーからスターリン、人種差別結社、悪徳経営者、妻を虐げる夫まで容赦なく懲罰し、つねに弱者の味方に立ち続けてきたスーパーマン。時代の雰囲気を掴(つか)み取ることにも長(た)けていた。大恐慌後のニューディール政策を熱烈に支持し、冷戦末期には核兵器廃絶を独力で遂行しようとさえした。
 興味深いのは一昨年のコミックス版。スーパーマンは「国連で米国籍の破棄を表明する」と宣言する。イランの民主化デモを支援する自分の行動が「米政府の手先」と見られることに「うんざり」しての決断だった。米国内では激しい論争が巻き起こった。
 いみじくも昨今のシリア情勢をめぐり、オバマ大統領は「米国は世界の警察官ではない」と明言する一方、必要とあれば軍事介入を厭(いと)わない「例外的な存在」でもあるとも述べ、やはり国内で賛否の声が相次いだ。
 オバマ氏自身を含め、米国の自己認識が大きく揺らいでいる近年の状況をスーパーマンはとうにお見通しだったのか。
 グッズやメディアを通してスーパーマンは際限なく商品化され、キャラクターや物語設定も複雑化を極めた。原作者は130ドルで著作権を譲渡したことを生涯悔やみ、失意の晩年を過ごす。
 勧善懲悪の華やかな舞台の裏を襲った不条理な現実の数々に心がひたすら切なくなる。
 みなし子で、正体を明かさず、超人的な能力を備えた正義漢。スーパーマンを模したヒーローも世界各地で続々と誕生し、子どもたちを魅了していった。
 大衆文化論としても実に含意に富む力作。訳文や訳者あとがきも素晴らしい。
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 久美薫訳、現代書館・4200円/Larry Tye 元「ボストン・グローブ」記者。現在は、ボストンで医療報道の人材育成計画に参加。黒人の名投手サチェル・ペイジの評伝を著し、米でベストセラーになった。長年にわたるスーパーマン好き。
    --「スーパーマン―真実と正義、そして星条旗と共に生きた75年 [著]ラリー・タイ [評者]渡辺靖」、『朝日新聞』2013年10月27日(日)付。

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[http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2013102700003.html:title]


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