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覚え書:「今週の本棚:本村凌二・評 『ローマ革命 上・下』=ロナルド・サイム著」、『毎日新聞』2013年11月10日(日)付。


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今週の本棚:本村凌二・評 『ローマ革命 上・下』=ロナルド・サイム著
毎日新聞 2013年11月10日 東京朝刊


 (岩波書店・各1万500円)

 ◇独裁への激動を描く古典的名著

 ノーベル文学賞(一九○二年)をもらった唯一の歴史家モムゼンは主著『ローマの歴史』を三十歳代後半で書いている。名著の誉(ほま)れ高い本書『ローマ革命』もまたサイムが書きあげたのは三十歳代後半だった。

 そのころ、ムッソリーニの率いるファシズムとヒトラーの統率するナチズムが台頭して、世界大戦の暗雲がしのび寄っていた。共和政が崩壊し独裁政が生まれる、その不安と恐れがとぎすまされた知性には突き刺さるように感じられたのだろう。

 サイムの描くところによれば、アウグストゥス帝と追随者は、心地よい標語を掲げ、ときには捏造(ねつぞう)してでも宣伝し、敵対者をレッテル貼りで貶(おとし)める。その生態は、まるで首領(ドゥーチェ)や総統(フューラー)を思い起こさせる。この過去と現在との重なりが歴史叙述をことさら生彩あるものにしていることは否めない。

 王を追放して自らの手で共和政国家を築いたローマ人はその体制を五百年にわたって守りつづけた。その共和政にほころびが見えはじめ、独裁者のごときカエサルは暗殺される。後継者に指名されたのは姪(めい)の息子オクタウィアヌスだったが、カエサルの第一子分を自認するアントニウスがいた。

 興味深いことに、サイムの視点は敗者となるアントニウスの側にある。アウグストゥスを批判しながら、その能力と偉大さを敵の目で浮かび上がらせるのだ。しかし、カエサルやアウグストゥスの人物像に重きをおくのではなく、その追随者や同志について語られる。

 もちろん支持者や協力者は指導者を賞賛する。さらに、アウグストゥス自身、共和政を再建したと唱える。だが、それは自賛にすぎないのではないか。法や制度は見せかけであり、実態は覆われている。そこに注目すれば、微細な手法で人間関係を解きほぐさなければならない。

 いわゆる皇帝権力の成立は、法制史の立場からすれば、第一人者(プリンケプス)と元老院とが共存する体制に見える。だが、護民官職権と総督命令権を掌握する第一人者は権威において他者を圧倒する。また、ローマ社会には網の目のようにいわば親分と子分のごとき庇護(ひご)関係が張りめぐらされており、第一人者はその頂点に君臨して他者の忠誠を集めることができる。もはや共和政を温存した共存体制どころではないのである。

 サイム以前にも寡頭支配層の庇護関係や党派に関する議論はにぎわいをみせていた。そのような潮流のなかで、古来の伝統的な貴族が没落し第一人者を支える人々が登場する転換期を「革命」ととらえたのが本書なのである。そこでは、眼(め)のくらむような親族関係・婚姻関係・利害関係をめぐる人脈があざやかに解明されている。

 サイムの叙述には、ローマ人の歴史家とりわけタキトゥスの語りと洞察が少なからぬ影響をおよぼしている。長い間ローマ人の考えや行動は寡頭政に導かれており、その精神で『年代記』も書かれてきた。だが、革命の進展とともに、ローマの古い支配階層は衰え、イタリア地方都市の有力者たちが台頭する。それにもかかわらず、古い枠組みは存続し、第一人者を支える寡頭支配層が形成されるのだった。

 アントニウスに同情的なサイムは、それだけアウグストゥスに辛辣(しんらつ)である。己の野望にだけ燃える狡猾(こうかつ)な男だったが、その野心の実現が結果としては救国の平和につながったという。

 個々の人物への評価は学術を超える部分がある。だが、ローマ史のなかでも最も史料のある激動期をあつかう本書は、正真正銘の古典的名著である。(逸身喜一郎ほか訳)
    --「今週の本棚:本村凌二・評 『ローマ革命 上・下』=ロナルド・サイム著」、『毎日新聞』2013年11月10日(日)付。

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[http://mainichi.jp/shimen/news/20131110ddm015070016000c.html:title]


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