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覚え書:「そして名画があった:/97 バルジ大作戦=玉木研二 /東京」、『毎日新聞』2013年11月21日(木)付。


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そして名画があった:/97 バルジ大作戦=玉木研二 /東京
毎日新聞 2013年11月21日 地方版

 ◇ヒトラーの成算なき賭け

 本土空襲も広がり、戦局悪化の一途をたどっていた1944(昭和19)年12月20日。毎日新聞の第1面(といっても、当時は統制下で新聞は紙1枚、表裏2面しかなかった)にこんな見出しの記事が地図付きで載った。

 「独の大攻勢鋭し」「今時ぞ到(いた)る」

 欧州の戦局を伝えるベルリン特電である。記事は「西部戦線は16日早暁、独軍の大規模反撃開始によって果然新展開を見せるに至った」とし、「西部要塞(ようさい)の前面に布陣する米軍陣地に突入、不意を食った米軍を随所に撃破し」と興奮気味に報じる。

 記事の横には国軍の最長老で西部戦線の最高司令官、ルントシュテット元帥が将兵に対し「祖国と総統のために一切を捧(ささ)げ、超人的な行為を遂行するという神聖な義務」を説く布告が載っている。

 この年6月、フランスのノルマンディーに連合国軍が上陸した。ドイツ軍は既に東部戦線でソ連軍に圧倒され、西部戦線も後退を続けて日々敗色を濃くしていた。

 追い詰められたヒトラーの、最後のばくちのような作戦がこれだった。知らされた将軍たちの多くは内心あきれたが、結局従った。

 米軍は後に「バルジの戦い」と呼んだ。バルジは英語で「出っ張り」などを意味する。突き出してきたドイツ軍戦車隊は奮戦したが……。

 これを素材にしたケン・アナキン監督の米映画「バルジ大作戦」(1965年)で広く知られることになる。

 映画は、空気に流されず、冷静に情報を分析、情勢を判断する米軍中佐(ヘンリー・フォンダ)を軸に展開する。

 ベルギーのアントワープも失い、もはや反転攻勢の余力はなさそうなドイツ軍。冬季に米軍の進撃も停滞気味だったが、将兵の間には、ほどなくクリスマスで戦争も終わるという楽観的な気分が広がっていた。司令部も大勢は決したとみた。

 だが、悪天候を突いて中佐は偵察飛行をし、写真を見て、ドイツ軍集結の気配を察知する。そして司令部に敵は近く攻勢をかけてくる可能性があると進言するが、情報担当者に否定される。

 前線の士気も緩んでいた。そこを突くように、決戦のために集められたドイツ軍戦車隊は森の濃い霧に守られ進撃する。突然近づいてくる無限軌道の地響きと砲撃に米軍は雪中を敗走、捕虜も出る。
 
 ドイツ軍の目標は、スピーディーな突進攻勢で米軍を分断してその戦列を大混乱に陥れ、西部の戦局を転換することにあった。(そして講和をし、東の対ソ戦に軍を集中すると考えたといわれる)

 アメリカ暮らしの経歴があり、英語が母国語のように堪能なドイツ軍将兵がひそかに米軍背後に送り込まれ、米将兵を装ってかき回した。標識を変えて米軍を誤った方向に行かせたり、撤退の妨害工作をしたりする。

 だが、ドイツ軍には決定的な弱みがあった。燃料が足りないのだ……。

 撮影はスペインで行われた。大量に動員された戦車がワイドスクリーンいっぱいに繰り広げる戦いは、迫力がある。近代戦の戦車は第一次世界大戦に登場するが、今では大がかりな戦車隊同士の正面戦が起きることはまずないだろう。戦略的攻撃兵器の主役は空へ、宇宙へと階段を上がって行った。

 だが、映画の主役はあくまで人間だ。敵の動きを見抜いた米軍中佐をはじめ、さまざまな将兵がドラマを織りなしているが、中でも強烈な印象を残したのはドイツ軍の戦車隊を指揮した大佐だ。

 これを演じた名優ロバート・ショウは「敵役」ながら、主役を食ってしまった観がある。合理的思考の持ち主ながら、軍人の誇りは高く、激戦地を何度もくぐって戦車戦術には絶対の自信を持つ。

 作戦で彼に託された戦車兵たちを見て、あまりに未熟な若さにひそかに落胆するが、一人が歌い始め、合唱になった戦車隊の歌「パンツァーリート」に彼も和し、絶望的な戦いに臨む覚悟をするシーン。後半の激烈な戦車戦とともに記憶に深く残る。

 さて、盟友ドイツ軍の大反攻の報を当時の日本の国民はどう受け止めただろう。空襲もあり、窮迫する戦時生活の中で、考える余裕もなかったか。あるいは、連日の大本営発表の虚飾を感知し、戦況記事そのものへの関心を次第に薄めていたか。

 「バルジ大作戦」が東京で公開されたのは1966年4月16日だった。64年のオリンピックを境に東京の街のかたちも人の姿も変わり、経済的豊かさを増す中で戦争体験の「風化」がいわれた。

 映画館で「そういえば、そんな記事があったな」と、思い出した人はまずいまい。

      ◇

 次回は「八月の鯨」です。
    --「そして名画があった:/97 バルジ大作戦=玉木研二 /東京」、『毎日新聞』2013年11月21日(木)付。

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[http://mainichi.jp/area/tokyo/news/20131121ddlk13070002000c.html:title]


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