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覚え書:「書評:大戦前夜のベーブ・ルース ロバート・K・フィッツ 著」、『東京新聞』2013年12月01日(日)付。

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大戦前夜のベーブ・ルース ロバート・K・フィッツ 著

2013年12月1日

◆野球に託された日米外交
[評者]澤宮優=ノンフィクション作家
 日本にプロ野球が創設されて七十七年になるが、発端は一九三四年の全米選抜チームと日本選抜チームとの親善試合である。
 このときベーブ・ルースが初来日し、大きな話題になった。日本選抜チームが後の大日本東京野球倶楽部(くらぶ)、現在の読売ジャイアンツとなった。この大会での沢村栄治の好投は伝説となったが、大会の真の目的は日米外交の修復にあった。本書は日米野球を軸に、開戦前夜の姿を政治・経済・文化の側面から活写したノンフィクションだ。
 当時、日本と米国の関係はこじれていた。日本は軍縮会議を決裂させ、軍国主義に向かう。そこで外務省の上層部などは、日米を和解させる方法を考えていた。それが日米野球だった。「政治家や官僚が和平会議を重ねるよりも、日米のチームが同じグラウンドで一シーズン野球をするほうが、よほど両国の相互理解に役立つのでは」とアメリカの新聞記事も同様の論調だった。
 全米チームの銀座でのパレードには数十万の群衆が集まり、日米の国旗を振って「万歳!」と声を上げた。ルースも双方の国旗を持って、「バンザイ」と応える。彼はファンから頼まれたサインにすべて応じたという。
 全米チームは全国の都市を回り、どこでも大歓迎を受けた。大会は全米チームが十六試合すべてに勝利したが、日米に親善という風が吹いたのは事実である。ルースは涙をこらえ「サヨナラ、バンザイ」と叫んで帰国した。
 日米野球は大成功を収めたが、時代の趨勢(すうせい)は覆らず、後に真珠湾攻撃という最悪の事態を迎えた。その報を聞いた日米の選手の変貌ぶりが悲しい。「地獄に落ちろ、ベーブ・ルース!」と叫んだ日本兵もいたし、スパイになった米国選手もいた。そして敗戦、戦後の日本野球はアメリカ流民主化の象徴となる…。戦争に翻弄(ほんろう)された選手らの人生も明らかにすることで、本書はより深い日米野球の本質に迫っている。
 (山田美明訳、原書房・2940円)
 Robert K. Fitts 1965年生まれ。アメリカの野球史・奴隷史の研究者。
◆もう1冊
 R・ホワイティング著『菊とバット 完全版』(松井みどり訳・早川書房)。日本プロ野球の黄金時代とその後から見た日米比較文化論。
    --「書評:大戦前夜のベーブ・ルース ロバート・K・フィッツ 著」、『東京新聞』2013年12月01日(日)付。

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[http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2013120102000172.html:title]

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