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覚え書:「今週の本棚:白石隆・評 『支配への競争-米中対立の構図とアジアの将来』/『自滅する中国-なぜ世界帝国になれないのか』」、『毎日新聞』2013年12月08日(日)付。

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今週の本棚:白石隆・評 『支配への競争-米中対立の構図とアジアの将来』/『自滅する中国-なぜ世界帝国になれないのか』
毎日新聞 2013年12月08日 東京朝刊

 ◆『支配への競争-米中対立の構図とアジアの将来』=A・フリードバーグ著、佐橋亮・監訳
 (日本評論社・3150円)

 ◆『自滅する中国-なぜ世界帝国になれないのか』=E・ルトワック著、奥山真司・監訳
 (芙蓉書房出版・2415円)

 ◇中国台頭に対する二つのリアリズム分析

 中国の経済的台頭、軍事大国化、政治的影響力の拡大によって、アジアはどう変わるか。中国はなにをめざしているのか。アメリカはどう対応すればよいか。フリードバーグ『支配への競争』はこういう問題を考える。


 アメリカは、冷戦終焉(しゅうえん)以来、協力と競争、つまり、貿易と外交によって中国に関与するとともに、アジアにおける力のバランスをアメリカとその同盟国に有利なよう、さまざまの措置をとってきた。

 一方、中国の指導者は、世界の趨勢(すうせい)は多極化にある、アメリカは相対的衰退期にあると考えてきた。その判断が世界金融危機で増幅され、中国が他国より早く台頭すれば、世界は多極化ではなく二極化する、と考えるようになった。では、世界第二の大国になって、なにをめざすのか。

 中国の「権威主義体制にとって安全な世界を作ること」、そのために東アジア、さらにはアジア全体で支配的・優越的地位に立つことである。中国はこれを経済協力により近隣諸国への影響力を不断に高めることで達成しようとしている。しかし、地政学的条件は「海」と「陸」で違う。「海」にはアメリカの同盟国、事実上の同盟国、パートナー国があり、インドネシア、ベトナムもいずれ加わる。一方、「陸」には、中国の経済成長の恩恵に与(あずか)りたい貧しい権威主義の国々がある。中国は「戦略的後方地域」の安定にはすでに成功した。したがって、「陸は穏やかで安定」している。しかし、「海は変化が大きく厳しい」。

 では、「海」でなにをめざすのか。中国が東アジアで優越的地位に立つには、台湾を統一し、アメリカを追い出し、日本をおとなしくさせなければならない。しかし、当分は、台湾問題はあいまいなまま、日本がしだいに相対的な力を低下させ、米中で地域を指導するか、勢力圏を互いに認め合うことが望ましい。一方、アメリカにとっては、中国に対峙(たいじ)する上で、オーストラリアと韓国が南北の「錨(いかり)」となり、日本が正面の位置を占める。韓国はぐらぐらしている。しかし、日米同盟が強靱(きょうじん)であれば、力のバランスが中国に有利になることはない。

 つまり、まとめると、こう言える。アメリカは対中関与で中国を「手なずけ」、同時に力のバランスをアメリカに有利に維持しようとしている。中国は、アジアにおける力と影響力を拡大し、地域の指導権を握ろうとしている。アメリカが中国の軍拡に対抗できなければ、力のバランスはいずれアメリカに不利になる。アメリカとしては同盟国、友好国と連携し、「より効果的なバランシング」によって、アメリカの地位を維持すべきである。これが著者の提言である。特に違和感はない。

 ルトワック『自滅する中国』の原題は「中国の台頭VS戦略の論理」、その要点は、かりに中国の指導者が中国はこれからも経済的台頭と軍事力増強と政治的影響力の拡大を同時に追求できると考えているのであれば、それは幻想である、という点にある。どういうことか。それには「歴史の比較」を考えればよい。

 〇〇は△△の平和の下、世界貿易で経済的に大いに発展した。しかし、この成功によって〇〇人は傲慢になり、自制心が利かなくなった。〇〇政府は、その経済的台頭とともに、〇〇は一大国に止(とど)まるだけでは不十分だ、世界大国にならなければならないと考えた。そこで〇〇は軍事力の強化に乗り出し、「国力に応じた」大洋艦隊を建設した。しかし、作用があれば、反作用がある。△△は、〇〇の海洋大国化に対抗して、諸国と連携し、同盟を強化して、○○を包囲した。○○は「貧しい国」と同盟するほかなかった。○○は大戦略で誤った。それが大戦で○○の崩壊をもたらした。

 ここでいう○○は中国ではない。しかし、この「戦略の論理」は中国にもあてはまる。ただ、中国の指導者はそう考えない。たとえば、2010年の「国防報告」は、中国の国防費は、中国経済と社会の発展に対応した「合理的かつ適正な水準」にあるという。つまり、かれらは、中国の軍事力増強が対外的にどれほど脅威か、わかっていない。そのため反作用ももうおこっている。それは日本、オーストラリア、ベトナムなどの動きを見れば明らかである。また、アメリカも「地経学的」手段、特に戦略的技術の移転阻止で、中国の経済成長を抑制する方向に動きつつある。唯一の例外は韓国で、この国は自国の安全保障のコストとリスクを負担せず、全面戦争の抑止は米国に、北朝鮮の一時的攻撃への抑止は中国に依存する。著者は中国が「自滅」するとは言わない。しかし、「戦略の論理」を踏まえ、中国台頭の将来をきわめて厳しく見る。

 いずれもリアリズムの国際政治学から見た中国台頭の分析である。一つは政策分析、もう一つは戦略分析で、問題設定も、切り口も違う。しかし、共通点も多く、それぞれにおもしろい洞察がある。
    --「今週の本棚:白石隆・評 『支配への競争-米中対立の構図とアジアの将来』/『自滅する中国-なぜ世界帝国になれないのか』」、『毎日新聞』2013年12月08日(日)付。

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