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覚え書:「今週の本棚:中村達也・評 『成長から成熟へ-さよなら経済大国』=天野祐吉・著」、『毎日新聞』2013年12月15日(日)付。


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今週の本棚:中村達也・評 『成長から成熟へ-さよなら経済大国』=天野祐吉・著
毎日新聞 2013年12月15日 東京朝刊

 (集英社新書・777円)

 ◇「別品の国」へ思いを託すメッセージ

 広告という覗(のぞ)き窓から、世の中の移り変わりを見つめ続けてきた天野祐吉さんの、図らずも遺著となった作品である。その末尾にこんな一文がある。「経済力にせよ軍事力にせよ、日本は一位とか二位とかを争う野暮(やぼ)な国じゃなくていい。『別品』の国でありたい」と。その昔、中国の皇帝は、画家や陶芸家などの作品を品定めして、一位の作品を「一品」、二位のそれを「二品」……等々と表したという。と同時に、通常のモノサシでは測れない、個性的で魅力にあふれた作品を「絶品」とか「別品」とか呼んだという。そうした意味での「別品の国でありたい」というわけである。

 戦後復興を経て、ひたすら経済大国行きの特急列車で走り続けてきた日本の社会が、バブルの崩壊で脱線し、さらに東日本大震災で大打撃を受けることとなった。でも、見ようによっては、これは大きなチャンスかもしれない。大震災後にJ・ダワーが朝日新聞で語った言葉に、天野さんは注目する。「大きな災害や事故が起きると、すべてを新しく創造的な方法で考え直すことのできるスペースが生まれる。いま日本はまさにその時だが、もたもたしていると、そのスペースはまた閉じてしまう」。成長から成熟への転換のチャンスとして活(い)かさなければならないのだが、現実はといえば、三・一一以後の日本の再生ではなく、三・一一以前の日本を再生する方向へと流れているのではないのか。天野さんは、こう見立てる。

 実は、経済成長のレールの上をひた走っていた頃にも、折りに触れそれを見直す兆しと気運が生まれたことが何度かあったし、そうした動きとつながる粋な広告がいくつも登場した。例えば、一九七〇年の「モーレツからビューティフルへ」(富士ゼロックス)。高度成長がそろそろ終わりにさしかかっていた頃に、脇目もふらずモーレツに働く日本人の振る舞いを、ちょっと距離を置いて眺めてみる。二度の石油危機を経て安定成長期に入り、しかしまだバブル経済には至っていない一九八二年の「おいしい生活。」(西武百貨店)。豊かな生活とは異なる「おいしい生活」、お仕着せのライフスタイルではない自分流のライフスタイルの勧め。そしてバブル崩壊後の一九九二年の「ハングリー?」(日清カップヌードル)。空腹は満たされているけれど、果たして心はどうなのかと、外国人の男のドスのきいた声が問いかける。続いて一九九三年の「そうだ 京都、行こう」(JR東海)。あたかも、経済大国行きの特急列車に乗り急いだあまり、何か大切な忘れ物をしてしまったのでは、とでも言っているようだ。

 しかし、そんな気分が漂いながらも、結局は経済成長路線から離れることができずに推移してきたというのが現実。一九五〇年代の半ばから現在に至るまで、実質GDPは、実に一一倍にまで膨らんだし、一人当たりGDPで見てもおよそ八倍にまで膨らんだ。あらためて、その成長ぶりに驚くのだが、一九八八年の「ほしいものが、ほしいわ。」(西武百貨店)は、実に象徴的であった。あれもこれも手に入れて、もはやほしいものが見当たらなくなったのであろうか。そして天野さんが注目するのが、この数年、正月のデパートの初売りで福袋を求めて数千人もの行列ができるという光景。特定のあるものがほしいのではなく、何かがほしい人々が殺到する。天野さんは、あらためて「成長から成熟へ」の思いを深くしたようであるし、「別品の国でありたい」と最後のメッセージを記すことになったのではなかろうか。
    --「今週の本棚:中村達也・評 『成長から成熟へ-さよなら経済大国』=天野祐吉・著」、『毎日新聞』2013年12月15日(日)付。

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[http://mainichi.jp/shimen/news/20131215ddm015070020000c.html:title]

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