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覚え書:「書評:国家と音楽家 中川 右介 著」、『東京新聞』2013年12月15日(日)付。


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国家と音楽家 中川 右介 著

2013年12月15日

◆政治との軋轢が生む名演
[評者]堀内修=音楽評論家
 遠くで轟(とどろ)く砲声に目前の陥落を感じつつ、フルトヴェングラーがベルリン・フィルを指揮してのブルックナーを聴く。悪夢に決まっている。だが少しだけ、ほんの少しだけ、その場にいた聴衆を羨(うらや)む気もある。
 フルトヴェングラーだってカラヤンだって、できれば芸術至上主義者でいたかったろう。だが、ナチスが受け入れるはずはない。痛い目に遭ったトスカニーニも、積極的に発言したバーンスタインも、音楽家たちは否応(いやおう)なく政治と関わった。
 語られているのはカザルスやコルトーなど主に二十世紀の演奏家だが、作曲家もいる。ショパンの亡命とポーランドの運命が明らかになるあたりで、始まりは近代国家ができるころからなのがわかってくる。以来音楽家は、絶えず国家と軋轢(あつれき)を起こしていた。
 さらに、ショスタコーヴィチとスターリンの話が淡々と進んでゆくうち、軋轢が受動的な運命などではなかったのではないか、と思えてくる。
 気づいて愉快になりはしないが、私たちがいま味わっている音楽は、深いところで危機と結びついているのではないか。
 ショスタコーヴィチの交響曲は、スターリンの圧政下にもかかわらず書かれた、のではなくて、圧政下だからこそ書かれた。ワルターはナチスの妨害を受けてもすばらしい演奏をした、のではなく、妨害を受けたから素晴らしい演奏をした。抑制された文章はそこまで踏み込まないが、芸術と人間の暗い秘密が、向こうに透けて見える。
 いつか音楽家が政治との軋轢から解放される日がきたら、音楽はさぞや退屈なものになるだろう。だが、恐れるには及ばない。あとがきで著者が指摘するように、原子力発電所の問題は、過去の話ではない。危機は続き、音楽はきっと生き続ける。
 描かれているのは政治と音楽の、悪夢の世界だ。味は苦いが、甘い香りもする。
(七つ森書館・2940円)
 なかがわ・ゆうすけ 1960年生まれ。「クラシックジャーナル」編集長。
◆もう1冊 
 『片山杜秀の本6 現代政治と現代音楽』(アルテスパブリッシング)。音楽の選曲とともに現代を批評するシリーズの第6弾。
    --「書評:国家と音楽家 中川 右介 著」、『東京新聞』2013年12月15日(日)付。

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[http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2013121502000164.html:title]

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