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覚え書:「今週の本棚:湯川豊・評 『別れの挨拶』=丸谷才一・著」、『毎日新聞』2013年12月15日(日)付。

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今週の本棚:湯川豊・評 『別れの挨拶』=丸谷才一・著
毎日新聞 2013年12月15日 東京朝刊

 (集英社・1680円)

 ◇多彩な文章に仕掛けられた最後の花火

 まぎれもなく丸谷才一さんの「最後の新刊」にあたる一冊だろう。そう思うと、格別に感慨が深い。

 じつにさまざまな種類の文章がある。文学論、日本語論、クリムト論、最晩年の書評の数々、そして「最後の挨拶(あいさつ)」まで、多彩な仕事が行き届いた編集で見渡せるようになっている。なにか丸谷さんが仕掛けた最後の花火を見る思いだ。

 文章に一貫しているのは、柔らかく語られながら、つねに論理的であることだ。それでいて、エピソードを多用するなどしてけっして晦渋(かいじゅう)な空論にならない。文章の背後に、文明のあり方への洞察が働いている。そう見ると、丸谷批評の縮刷版一冊がここにあるかのようだ。

 そういえば、自分の批評についてこんなふうに語っている。死去するほぼ一年前の、毎日新聞「今週の本棚」書評総会での挨拶(よく知られているように、丸谷才一はこの書評欄の創始者で顧問だった)。

 自分は50パーセント小説家で50パーセントが批評家だと思う、という。「わたしの小説のおもしろさは内部にゐる批評家のおかげだし、批評の取柄も内部にゐる小説家性、作家性に大きくよりかかつてゐる」

 そして、その批評家性は、イギリスの書評に学んだのが特色。それは、具体的な本の魅力を言い立てて、本と読者と批評家の楽しい共同体を形づくることだ、と言葉を継いでいる。

 批評家とは何か。その思考をさらに進めているのは、「われわれは彼によつて創られた」という、吉田秀和を追悼する文章である。

 批評家は二つのことをしなければならない。第一にすぐれた批評文を書くこと。第二に(実践などによって)文化的風土を準備すること。この二つをおこなってはじめて完全な批評家といえるが、吉田秀和はまさにそれだった。

 第二の面でいうと、桐朋学園音楽科をつくって世界的な音楽家を産み出したし、さらにいえば放送などの活動で、クラシック愛好家を創った。「戦後日本の音楽は吉田秀和の作品である」とまでいいきっている。

 では、丸谷才一自身の批評家としての二つの面が、現代日本文学をどう変えたのか、という思いに自然に私たちを導いてゆくのだが、回答は本書のいたる所に見いだせる。

 関連したものとして、私が一読して溜息(ためいき)をついたのは、「十九世紀と文学と遊び心」という講演原稿。日本近代文学の特殊なゆがみをテーマにしている。明治の中頃から後半にかけて、江戸期以来の日本文学が大きく変化して、「大まじめで厳粛な、おもしろみのないものになつた」のだが、それはなぜか。

 十九世紀末からのヨーロッパ文学の主流となった自然主義文学を「誤解して」輸入した結果であり、その誤解のもとは、同時期にヨーロッパ文化が遊び心を衰退させていたことにあるとする。驚いたことにその衰退のありさまを男の服装の変化を例にとって語るのである。日本の私小説が生まれた経緯が、着想の新しさによって改めて実感できる。

 そして、いうまでもなく、丸谷才一の作家としての一生は私小説反対の立場を貫いたことだった。最晩年の文化勲章受章を祝う会での挨拶で、それをはっきり宣言していると同時に、その立場を切り拓(ひら)いた後、少なからぬ後継文学者が出現したことを喜んでいる。自分の活動も「成功した、と言へないことはない」と語るこの挨拶は、遺言のようでもあり、後に続く者たちへの力強い励ましでもある。
    --「今週の本棚:湯川豊・評 『別れの挨拶』=丸谷才一・著」、『毎日新聞』2013年12月15日(日)付。

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[http://mainichi.jp/shimen/news/20131215ddm015070018000c.html:title]


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