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覚え書:「書評:北のはやり歌 赤坂 憲雄 著」、『東京新聞』2013年12月22日(日)付。

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北のはやり歌 赤坂 憲雄 著

2013年12月22日


◆庶民の暮らし、心情を思う
[評者]井口時男=文芸評論家
 昭和戦後の流行歌を素材につづった連作エッセイ。こうしたエッセイはとかくふわふわしがちなものだが、本書はしっかりと読み応えがある。テーマは<北>。柳田国男の民俗学を踏まえながら「東北学」を提唱してきた著者にふさわしいテーマだ。
 なるほど<北>を歌った名曲は多かった。著者が選んだ十曲は、「リンゴの唄」「北上夜曲」「北帰行(ほっきこう)」「ああ上野駅」「港町ブルース」「浜昼顔」「北国の春」「津軽海峡・冬景色」「俺(お)ら東京さ行ぐだ」「みだれ髪」。
 「リンゴの唄」の舞台が東北だという見解には無理があるだろうが、この無理な選択にこそ本書のモチーフがよく現れている。
 著者は、東日本大震災の二カ月後に避難所で開かれた復興支援コンサートで「上を向いて歩こう」が合唱された(させられた)ことへの違和感を記すブログ記事を引用する。この歌は被災者の心情には明るすぎた、というのだ。そしてそれを、旧満州からの引き揚げ船の中で「リンゴの唄」を聞いた少年・なかにし礼の、「明るすぎた」という回想とつなぐのである。
 震災から一年後に書き出された本書は、どうしても、敗戦後の希望を屈託なく歌った「リンゴの唄」への微妙な違和感から始めなければならなかった。ここには、あくまで東北の被災者の心情に寄り添おうとする著者の姿勢がくっきりと刻まれている。
 そして、戦後復興期から高度成長期、さらにバブル期へと、歌の中の<北>の心情や精神史をたどった本書は、早すぎる晩年に美空ひばりの歌った「みだれ髪」で締めくくられる。
 「暗(くら)や涯(は)てなや」「見えぬ心を照らしておくれ/ひとりぼっちにしないでおくれ」と歌うその結びの歌詞。それは津波の死者たちの「海の昏(くら)い底からの声」なのだ、と著者は書く。
 民俗学とは、庶民の暮らしと心情に寄り添い、先祖たち(つまり死者たち)の声に耳傾ける学問なのだった。
(筑摩選書・1575円)
 あかさか・のりお 1953年生まれ。学習院大教授。著書『柳田国男を読む』など。
◆もう1冊 
 なかにし礼著『歌謡曲から「昭和」を読む』(NHK出版新書)。昭和の時代を彩った歌謡曲=流行歌の誕生から終焉(しゅうえん)までを概観する。
    --「書評:北のはやり歌 赤坂 憲雄 著」、『東京新聞』2013年12月22日(日)付。

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[http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2013122202000173.html:title]

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